政府は今年10月に「インボイス制度」の導入を予定している。弁護士の郷原信郎さんは「いまインボイス制度を導入するべきではない。消費税について国民が誤解している状況では、零細事業者は批判にさらされ、廃業に追い込まれる可能性がある」という――。

※本稿は、郷原信郎『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)の第4章「『消費税は預り金』という“虚構”が日本経済を蝕んでいる」の一部を再編集したものです。

スマホの計算機を使用して、右手に持った領収書の計算をする女性の手元
写真=iStock.com/Drazen Zigic
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このままインボイス制度を導入するのは危ない

今年10月にはインボイス(適格請求書)制度の導入が予定されている。

小規模な消費税免税事業者は、適格請求書発行事業者の登録をして課税事業者となるか、仕入れが「消費税の仕入税額控除」の対象外となる免税事業者にとどまることで仕事を失うリスクを覚悟するか、小規模事業者は、困難な選択を迫られている。

しかし、インボイス制度の導入をどうみるか、どう対応するかを考える以前の問題として、そもそも、消費税というのが、いったいどういう税なのか、正しく理解されていないという重大な問題がある。

多くの人は、消費税を、「事業者が消費者から預かって、それを税務署に納付するもの」のように認識している。そうであれば、消費税は全額消費者が負担するもので、事業者には「消費税相当分のお金を預かって税務署に納付するコスト」以外には、負担は生じないはずだ。

しかし、消費税法上は、納税義務者が「資産の譲渡等」を行った「事業者」であり、消費税は「取引の対価の一部」であることは明らかだ。基本的には、各取引段階の事業者が納税義務を負う「付加価値税」だ。それを事業者が取引先に、そして最終的に消費者に転嫁できた分については、負担を免れるというだけだ。

多くの人が、消費税は「預り金」のように認識しており、そこから、免税事業者が消費税を「預かっている」のに、税の支払を免れているとして、「益税」などという誤った批判まで生じている。

「消費税=預り金」という誤解はなぜ生まれたか

なぜ、法律上はあり得ない認識が、国民全体に広まり、動かしようがないほど定着してきたのか。それは、1989年の消費税導入の際から、国民に受け入れさせようとする当局やマスコミが行ってきた「消費税=預り金キャンペーン」によるものだ。

1987年、中曽根政権時代に、政府は、大型間接税としての「売上税」の導入を決定して、法案を国会に提出したが、国民からも、経済界からも、猛烈な反発を受けて断念した。そのわずか一年後の1988年、竹下内閣において「消費税」の導入が決定され、国会で可決成立した。

消費税導入の時点から、消費税が「預かり金的性格」であることを積極的に公言し、それが、法的には明らかに誤った説明が、世の中全体に広まることにつながっていった。

このような「預り金的性格」という言葉を使った政府側の説明は、「預り金」と言っているわけではないので、誤った説明とまでは言えない。しかし、それが、国民には、「預り金」と認識させて確実に消費税を負担させ、事業者の側もそれを「預り金」のように扱い、納税義務を負う消費税額について、確実に納付をさせようという意図によるものであることは明らかだった。

要するに、国民全体が消費税を「事業者が消費者から預かり、そのまま税務署に納付する税金」のように誤解させようとするものだった。