MLBは選手のすべてが可視化されている

MLBは、2015年から全球場に、選手やボールの動きを瞬時に分析できる解析ツール「スタットキャスト」を導入した。このスタットキャストは、移動速度や変化が計測できるドップラー・レーダーを利用した弾道解析システム「トラックマン」、画像解析システム「トラキャブ」を使い、フィールド上で行なわれているすべてをデータ化して、可視化することを可能にした。現在のMLBは「スタットキャスト時代」と称されている。

例えば、2018年に大谷が投げたスライダーの平均回転数は2319回転だったのに対して、22年のスライダーは2492回転だった。また、強い打球を打たれる確率を示すハードヒット率は、21年が39.9%だったのに対して22年は33.2%だったことなど、すべての事柄が可視化されている。

打者を追い込んだ大谷はスライダーを投げる傾向にある

そのスタットキャストに「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計学データ分析を加え、選手は膨大な情報の中でプレーしている。投手大谷が相手打者を2ストライクに追い込んだ場合、次の球種は、セイバーメトリクスが統計学データによりスライダーを示唆して、スタットキャストがアウトコースに逃げていく2300回転のスライダーを予想する。そんなデータを打者が準備して、大谷と対戦している。もちろん、投手大谷も相手打者のデータを学習して投球に反映している。

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写真=iStock.com/Myvector
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一方、ベーブ・ルースの時代は、スタットキャストもなければ、1970年代に提唱されたセイバーメトリクスもない。投手は、ただ投げ、打者は、ただ打つだけの時代だった。

大谷は、ストレート、シンカー、スライダー、カーブ、カットボール、スプリットなど、多種多彩な変化球を武器にしているが、ルースが投手だった時代は、ストレート、カーブ、スライダーの3球種が中心で、他の変化球も存在していたが、現在の精度とは比較にならないレベルだった。

その他に、球種と呼ぶに相応しいかはわからないが、唾や噛みタバコのヤニや泥などをボールに塗る「スピットボール」や、隠し持ったヤスリや爪でボールに傷を付ける「エメリーボール」などがあった。