「何もないところから、全部の工程に家族が携わり製品になる」

今期は、特需に対応できた増収分でその大部分を補うことができたが、来期以降の見通しは立たない。新たな取引の開始で得られる売り上げでその重石を乗り越え、循環の原資を積み増していけるのか。桑水流畜産は今まさに、その分水れいに立っている。

安泰な時期など一度もなかった。だが、桒水流家に19歳で嫁ぎ、浩蔵さんと二人三脚で桑水流黒豚を育ててきた美穂子さんはこう言う。

「ここに嫁にくるまでは、ただ買って食べるだけで、お肉になるまでどんな積み重ねがあるかなんて全然知りませんでした。何もないところから、全部の工程に家族が携わって製品になる。それを売ってお客さまがお財布からお金を出して、それが会社に入ってきて初めて私たちの生活が成り立っている。娘たちもそれを見て育ってきた。愛情と情熱をギュッと込めて、自信を持って作り続けていくだけです」

食した人の安心と満足という信頼が、新たな出会いとなって作り手の思いをつなぎ、広げていく。失いたくない、失ってはいけない日本の食の真髄が、ここに詰まっている。

【関連記事】
「冷めた食べ物」はまったく売れないのだが…それでも台湾で「崎陽軒のシウマイ弁当」が大ヒットしたワケ
牛乳は捨てるほど余っているのに、なぜ値上げなのか…平均所得1000万円超の「乳牛農家」をめぐる深い闇
「クレーム殺到」を覚悟していたが…「全席タバコOKカフェ」を展開したら想定外の大好評となったワケ
映画も音楽もネットで完結する時代なのに…レンタルショップのゲオが潰れるどころか急成長しているワケ
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ