変化は摩擦を生み、摩擦は進歩を生む

私の好きな言葉に、「変化は摩擦を生み、摩擦は進歩を生む」があります。常にこの言葉を意識してきました。

私は、入社してすぐに町田支社に配属されました。そこで、入社前に抱いていた理想と現実とのギャップが大きいことを感じて、疑問点を書きためていました。たまたま75周年記念論文の募集があり、疑問点を論文にして応募したところ入賞してしまった。この経験がきっかけとなり、経営に対して提言することが大切で、そのための摩擦を恐れていてはいけないという思いを抱くようになりました。

今回の株式会社化・上場に際しても、この思いを自分に言い聞かせてきました。

一昨年のリーマン・ショック以降、社内外から、「本当に上場できるのか?」という声が高まり、職員間でも、大きな心理的な摩擦が生じていました。特に、09年3月に日経平均株価が7000円割れ寸前にまで下落したころは、なかなか先が読めずに私自身も悩んだほどです。

経営陣や株式会社化推進に携わるメンバーともいろいろと議論をしたのですが、いちばん救われたのは、このプロジェクトを遂行する若手職員たちが、まったく怯まなかったことです。

実は、株式会社化は、森田富治郎社長(現会長)時代の01年にも検討しています。当時、私は担当役員を命ぜられましたが、結局、時期尚早ということになった。しかし、以後、ディスクロージャーの推進やIR活動など、株式会社になったつもりで、やれることはやってきました。また、02年に大同生命さんが株式会社化しましたが、このときは生保協会の会長会社としてサポートしました。

こうした経験を通じて、株式会社の実務に詳しい若手が育っていった。彼らは大きな力になってくれました。

当社が株式会社化・上場した10年4月1日は、入社式の日でもありました。その場で、私はグループを含めた6万人の全職員に対して、「新創業宣言」を行いました。株式会社となった第一生命グループの6万人の「志」のありようを、「新創業」という言葉に込めたのです。株式会社化は、世代を超えた大きなチャレンジであり、次の世代がどのような成長戦略を描くかが問われるということを伝えました。

今の日本の状況を考えると、残念ながら茨の道しかありません。危機を煽るつもりはありませんが、さりとて楽天的にもなれない。やはり「健全なる危機意識の共有化」が必要ではないでしょうか。

職員に対しても、お客さまに対してもこのことを共有することが必要です。そして、同じ目標に向かってひとつになる。それが「お客さま第一主義」を実現する一歩になるのだと信じています。

※すべて雑誌掲載当時

(山下 諭=構成 的野弘路=撮影)