酪農・乳業村の利権を「税金」で守る仕組み

しかし、このような経済合理的な活動を行うと、酪農団体や農林水産省と全面的に対立する。逆に生乳供給が逼迫ひっぱくするときに、自分の会社に酪農団体から生乳を回してもらえなくなるかもしれない。特に、全生乳の6割を占めるとともに加工原料乳のほぼ全てを生産している北海道の酪農団体、ホクレンが生乳供給で持つ独占的な力は巨大である。

無理をしなくてもよい。乳価引下げと言わなくても、農林水産省は過剰在庫解消の手段を講じてくれる。今回は、WTO違反の輸出補助金まで検討してくれている。それでもダメな場合は、酪農団体が乳価維持のために生産調整(減産)してくれる。もちろん農林水産省も乳牛淘汰とうたなどの補助金を交付してくれる。これで、酪農・乳業村すべての関係者の利益を守ることができる。このコストを負担しているのは納税者だが、酪農・乳業村としてはあずかり知らぬことだ。

価格を維持するために数量で調整するやり方は、食管制度以降の米政策と同じである。こうして、生乳が廃棄されても乳価は上がる。

畜産部を畜産局に昇格させた農林族議員

農林水産省が酪農に牛舎、搾乳施設(搾乳ロボットなど)、農業機械などを補助してきたのは、酪農生産の効率化を図り、コストを下げて消費者に利益を還元するとともに、WTOやTPPなどの関税削減交渉にも対応できるようにするためだった。ところが2007年以降乳価は下がるどころか上昇している。

第1次安倍内閣の2007年には、米政策でも大きな変化が起きた。生産者への減反目標を国が配分するのをやめてJA農協に任せるという改革〔安倍首相(当時)が2014年に減反廃止と言ったのと同じ内容〕を、自民党農林族議員がひっくり返したのだ。これ以降、農林水産省は農林族議員に反抗できなくなった。

今の農林族議員の中心は畜産族である。彼らは、畜産部を畜産局に昇格させた。畜産族の圧力は陰に陽に乳価交渉に影響する。被害者は、納税者として酪農家に補助金を払いながら、消費者としてより高い牛乳乳製品を買わされる国民である。