虐待を防ぐためにできること

【宮口】そもそも虐待やネグレクトは基本的に隠されるので、認定したり、予見するのは困難と言われています。まずは社会全体でそのことを理解して、児童相談所で働く人たちが孤立しないように、外にいる私たちが応援していかないといけないと思います。そうしていくことで児童相談所が機能するようになり、一人でも多くの子どもを守ることにつながっていきます。

児童相談所は、子どもを守るために、「親子の危機」に介入します。それは最大の支援のチャンスです。時として、親や子どもの意に反しても子どもを守られねばなりません。その毅然きぜんとした対応に、親は憤りを示すでしょう。だからこそ、親にも子どもにもその混乱した状況に寄り添う誰かが必要なのです。それは「失敗してもやり直せる」こと、誰かの助けを借りてやり直していけることを親も学んでいくチャンスです。

宮口智恵『虐待したことを否定する親たち』(PHP新書)
宮口智恵『虐待したことを否定する親たち』(PHP新書)

そんな時に児童相談所の職員は冷静でいることは簡単ではありません。しかし、親や子どもと一緒に揺れながらも、「子どもにとっての安心基地」を守り、親と対話を重ねて頑張っている児相職員に親たちは心を開いていきます。それを私は見ています。

「あの時、子どもを保護してもらってよかった。あのままだったら危なかった。今は何かあったら児相のAさんに相談したい」とおっしゃった保護者もあります。子どものために誰かとつながる意味を実感されています。

児童福祉の仕事は、いろいろな困難を抱えながらも必死で生きている親子の人生に深く関わることができます。大変なことがあっても、それでも一緒にやり直して生きていく。この社会は捨てたもんじゃないと感じられる。児童福祉司2000人増員した時に、若い人たちがやりがいと希望を持てる仕事としてあってほしいのです。

(構成=プレジデントオンライン編集部)
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