「介入」と「支援」の役割分担が必要

――「ちゃんと保護しろ」という世間と、「なんで子どもを奪うんだ」という親の怒りの板挟みなのですね。さきほど一時保護したあとに、親子をつなぎ直すのも児童相談所の役割だけど、親が怒って関係構築ができず、それもままならないと伺いました。そもそも親から子どもを保護する権限を持つ児童相談所の職員が、親子をつなぎ直す支援も行うというのは無理があるのではないでしょうか。

【宮口】はい、よく児童相談所に課せられている家庭への「介入」と「支援」という二つの役割は「右手で叩いて、左手で握手する」と表現されます。親御さんからしたらそんな児童相談所の職員に悩みを正直に打ち明けるのは難しいことです。実際、当時「あなたに本当のことのこと言ったら、また子どもを連れていくでしょ」「だから、本当のことは言えなかった」と再び子どもを傷つけてしまった親から言われたこともありました。

15年前に親子関係再構築のためのプログラムを実施する民間団体、チャイルド・リソース・センター(以下、CRC)を立ち上げたのは、権限を持つ児童相談所と異なる立場での支援が必要であること、怒りを持つ親も本当は支援を求めていて、それを支える第三者が必要であると、考えたからです。近年では児童相談所においても、家庭移行支援の組織を設置し、役割分担をしながら継続的な支援を行っている自治体も出てきています。「子どもを保護された親」の声を聴いていく役割が、子どもと親のその後の人生をつないでいくためには必須です。

親と子、それぞれに「安心基地」をつくる

――CRCのプログラムでは、どのようなことをするのですか?

【宮口】私たちは児童相談所の委託を受けて、一時保護後、施設入所となった子どもと親が再会する場面で「CRC親子プログラムふぁり」を実施しています。その目的は、親が将来にわたり、子どもの「安心基地」になることを求められていると自覚し、子どもへの関わりを適切なものに改善することにあります。

安心基地(そして安全な避難所)は「不安や恐れがあるときに特定の人にくっついて安心感を得る」というアタッチメントのことを意味しています。それは人間が生きていくためには不可欠なものです。安心感がないと子どもは生きていくことができないし、遊びや勉強をする気持ちも起きません。それは、虐待してしまう親も同様です。

そこでふぁりでは、子どもと親、それぞれに支援者(ファシリテーター)がついて、いっときでも親と子の「安心基地」になるべく、関係の再構築に寄り添い、伴走します。

プログラムは全10回で、毎回、それぞれのファシリテーターと過ごす「親時間」「子ども時間」と、みんなで一緒に過ごす「親子交流時間」で構成されています。親時間には、テーマに合った心理教育を行ったり、親が自分自身のことを知るためにファシリテーターとふりかえりの協働作業をしたり、親子交流時間を録画したビデオを見て、その時々に自分や子どもがどんな気持ちだったのか「見る」練習をしていきます。