国際標準の同一労働同一賃金へ

日本の労働市場に職務給を普及させるためには、真の同一労働同一賃金が大きな前提となる。それは、安倍政権時に、正規・非正規間の賃金格差是正を目的として、すでに実現しているとの認識が一部にあるが、これは正しくない。本来、非正規社員のフラット賃金に対して、正規社員の年功賃金を維持したままで、同一賃金が実現したと到底言えるはずがない。

この解のない答えを導きだすためのトリックは、法律自体には見当たらない。それは同一労働同一賃金のガイドラインに、「正規社員の基本給は勤続年数に応じて支払われるという現実を認めた上で、仕事の実態に違いがなければ同一賃金の義務づけ」とある。しかし、正規・非正規労働者の賃金格差が拡大する中高年層で、正規社員と同じ長さの勤続年数の非正規社員は、ほとんど存在しないため、結果的に現行の賃金格差を正当化するだけである。この勤続年数要件を外さなければ、国際標準の同一労働同一賃金とは言えない。

また、個々の職務についての同一労働同一賃金の是非について、企業側の立証責任も明確にされていない。これが担保されなければ、企業と比べて十分な人事データを持たない労働者側に裁判での勝ち目はなく、実効性に乏しい。これは、企業側にとっても、本来の能力主義人事を行うためには不可欠であり、その整備は必要な投資といえる。

手に持った3枚の一万円札
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企業間競争を通じた望ましい職務給へ

岸田首相の「日本企業に合った職務給モデルを6月に提示」という演説について、その実現可能性に疑問を持った人は少なくないであろう。

しかし、より大きな問題点は、「労働市場における政府と企業との役割」のあり方である。社会政策的な見地から最低賃金を設定することは、どの国でも政府の役割となる。ただし、いかなる賃金体系を企業が選択するかは労使の決定事項である。その内容が仮に、放置すれば年功賃金がいつまでも変わらないという懸念があったとしてもだ。

個々の企業が創意・工夫に委ね、その内からベストプラクティスの職務給が普及することが、市場経済の基本である。そうした企業の努力を支援するための労働市場環境の整備こそが政府本来の役割である。