一時代を築いた名車の凋落

3位ムーブと5位ワゴンRにしろ、台数の半分以上が両側スライドドア付きのムーヴ キャンバスとワゴンRスマイルです。中でもワゴンRは割りと悲惨でした。

ワゴンRスマイルは21年8月に発表されました。

それ以前はスライドドア無しのノーマルワゴンRだけで、月販ランキングは軒並み10位以下。ほんの10年前まで1位常連で、今の背高軽ワゴンブームをつくった張本人たる名車が、ですよ。

思い返せば、ワゴンRのデビューは鮮烈でした。93年に初登場。当時、軽と言えばアルトのような軽セダン(見た目はハッチバック)か商用ワンボックスしかない中、突如登場した革命的背高セミトールワゴンフォルム。

一瞬シンプルすぎるデザインに度肝を抜かれますが、今考えると時代を超えたニューコンセプトで、ユニクロや東急ハンズに置いてあってもおかしくない軽初のライフスタイル商品だったと思います。

無駄を削ぎ落としたシンプルミニマルデザインは今見ても傑作。世界的カーデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロが「一番好きなデザイン」と評するだけあります。

初代ワゴンR
画像提供=スズキ
初代ワゴンR

ただしその時代逸脱観がゆえから、当時は販売方針で混迷があったとも聞きます。

日本で一番売れていたワゴンR

そもそもワゴンRのアイデアは、今では第一線を退かれたスズキのカリスマ経営者、鈴木修(現相談役)の肝いりで、当初はもっとニッチ狙いのネーミングだったそうです。販売直前ギリギリのギリで修氏が、本来あるべき普遍的なコンセプトにアジャストすべく「ワゴンR」へ改名。

ネーミングも「セダンもあるけど、ワゴンもあーる(R)」というダジャレから考えたというのも有名な話。当時、あまりに急な方針転換で、タイアップを作っていた知り合いのコミック誌編集者が写真撮り直しで四苦八苦したという逸話も残っています。

しかしその甲斐あってワゴンRはベストセラー街道まっしぐら! ダイハツ・ムーヴやホンダ・ライフなどの後追いも続々登場し、1993年の初代発売以降で2017年までに440万台も販売。

加え1998年の車両法改正で軽規格が拡大し、ボディサイズがアップ。安全性が増したこともあって足グルマだった軽のイメージが一変。

ワゴンRもその波に乗り、2003年度から2008年度まで5年連続で軽販売1位を記録。登録車を含む、オールジャンルでも2004年度から2008年度まで5年連続トップを取ったのです。

90年代も1位を取りまくっていましたし、その後インドにも進出。アチラでは今も高い人気を誇っています。