経済的特異点であれば、2045年から2060年くらいにかけて起こってもおかしくないと思います。その時、人間がそれほど労働しなくても生きていける「脱労働社会」が訪れるという目算です。

2016年AIブームのさなかに出版した『人工知能と経済の未来』という本でおよそそのように論じてから、ブームが沈静化した今に至るまで私のそうした基本的な考えはほとんど変わっていません。

技術を追求し続けた者がビジネスを制す

私は頑固にも自分の開陳したAIに関する予想にこだわり続けていますが、世間の方では大きな期待を寄せていた分、AIなんか実はたいしたことがないなどと半ば幻滅するに至りました。しかしながら、ハイプ・サイクルの幻滅期に入ってそのまま陳腐化する技術がある一方、幻滅期を乗り越えて再び期待度が高まり、広く使われて安定期に至る技術もたくさんあります。

ノーベル賞経済学者であるポール・クルーグマンさんは1998年に、「インターネットが経済に与える影響がファックス並みであることが2005年までには明らかになるだろう」と予測しました。

2001年にはITバブル(アメリカではドットコムバブル)が崩壊し、インターネットに対する期待は急速にしぼんでいきました。当時は、クルーグマンさんが正しいかのようにも見えましたが、今ではインターネットがファックスと比べようもないことは誰の目にも明らかでしょう。

インターネットを活用したサービスを成功させた企業であるGAFAMが時価総額ランキングの上位を占めています。真に世界を変革し得る技術が何であるのかを見抜いて、ブームが去った後にもその技術を追求し続けた者こそが、ビジネスを制するのです。

学生たちにAIプログラミングを教える理由

それと同じことがAIについても当てはまります。AIが幻滅期を超えてインターネット以上に世界を激変させる技術になることに私は疑いを持っていません。仮にAIが今後まったく進歩せずに、今の水準の技術がただ普及するだけでも、経済や社会は様変わりするはずです。

これからブームとは関係なくますますAIの導入が図られていく段階に入るものと確信しています。そのような確信があるので、私自身、ゼミ生の中から希望者を集めて、AIプログラミングを教え続けています。教え子達は経済学部の学生ですが、AI時代には文系の人間でもAI技術に精通していることが大きな武器になるだろうと思っています。