新型コロナウイルスの感染拡大が始まって約3年。万全の対策をしていたものの、突如、陽性者が出ることで予期せぬ事態が起こる。福島県の磐城高校ラグビー部は今冬の全国大会出場をかけた大一番の県大会決勝戦を辞退した。フリーランスライターの清水岳志さんが選手、監督、保護者に「苦渋の決断の日」を取材した――。
撮影=清水岳志

仲間と切磋琢磨した「青春の密」は報われなかった

「青春って、すごく密なので」

今夏の甲子園で初優勝を果たした仙台育英高校(宮城県)の野球部監督が言った言葉は2022年を代表する流行語になった。

野球がすごく密なら、タックルやスクラムなど体と体の激しいコンタクトプレーが連続するラグビーは“超々密”になるだろう。

年末年始恒例の全国高校ラグビー大会が開催されている。各都道府県大会で敗れた高校も代表校を応援しているだろうが、ちょっと複雑な心境で試合中継を見ている高校もある。

福島県の磐城高校(以下、磐城)である。

例年、東京大、京都大に複数人、東北大には2桁の合格者を出す進学校で、創立127年の歴史を誇る伝統校だ。

文武両道の磐城は過去に計18回、花園に出場を果たしている。昨年(2021)度は1回戦で0対45の敗戦だったが、野球同様にラグビーでも私立強豪が代表校にずらりと並ぶ中、全国大会に地方の公立進学校が出場することは快挙と言っていい。

2020年4月に入学した今の3年生はコロナに翻弄され続けた高校生活だった。磐城ラグビー部3年でキャプテンを務めた木田竜晟君が言う。

「入学した時は非常事態宣言がすぐに出て、5月までは登校もしなかったし部活も集まってはできませんでした。近所の2、3人で公園で体を動かす程度。その後もそんなことが何回も繰り返されました。平常時の部活を知らない。僕らの世代はそれが普通だったので慣れていました」

リーダーは苦笑いした。

不遇の世代ともいえる彼らだが、3年間の集大成の今冬の全国大会出場にかける熱い思いは相当なものがあったことは想像に難くない。

しかし、あと少し、ほんの少し……。最後の最後に仲間と切磋琢磨した「青春の密」は報われなかった。