一方、消費者からは「益税」問題が指摘されている。免税事業者も物やサービスを売ったときは買い手から消費税をもらう。それを国に納めなければ、そのまま免税事業者のものになる。これを益税というが、消費税率が3%だった時代ならともかく、今や税率は10%であり、益税は増えている。弱い者いじめどころか、既得権益が拡大しているのではないかという声があがるのも無理はない。

ところが、政府はゆがんだ税制を放置したままだった。インボイス制度を採用すると、青色申告する事業者がイカサマしづらくなって、今のような反対運動をされる恐れがあるからである。

青色申告は帳簿方式だ。帳簿は自分でつけるものだから、事業者のなかには私的に使った費用をごまかして経費として計上しようとするものが現れる。もちろん税務署に目をつけられたらアウトである。しかし、税務署はたまに見せしめとして税務調査に入るだけ。イカサマ事業者からすると交通事故に遭うようなもので、運が悪かったとしか思っていない。一方、インボイス方式が入ってきたらイカサマがやりづらくなる。それまで甘い汁を吸っていた事業者が嫌がるのは当然だ。

デジタル化すれば手間もイカサマもない

税を納めたくないという事業者の声など、本来は無視すればいい。ところが政治家は、業界団体から陳情を受けて例外をつくることが「仕事」だと勘違いしている。消費税が導入された1989年当時、免税事業者の基準は今より緩く、課税売上高3000万円以下だった。当時動いた政治家は、自分は立派な仕事をしたと胸を張っていたことだろう。

売り上げが少ない小規模事業者までインボイスを適用すると経営が立ち行かなくなるという声があるが、そもそも前提がおかしい。ダメな会社は退場させて新陳代謝を行うのが資本主義の鉄則である。公平な競争環境下で生き残れない会社なら、つぶれてもらったほうが社会のためになる。

ところが、日本は経済原則に例外をつくってしまう。最たるものは、2009年施行の中小企業金融円滑化法、いわゆるモラトリアム法だった。リーマン・ショックで経営が悪化した中小企業等を救うため借金返済を一定期間猶予する法律で、時限立法だったが、二度延長されて13年3月末まで続いた。恩恵を受けた企業は30万社超。そのうち経営が改善して成長した企業はほとんどない。さらに第二次安倍内閣でも、アベノミクスによって、日銀は「異次元緩和」やゼロ金利・マイナス金利政策を打ち出すなど、淘汰されるべき企業を延命させる政策が続いた。無理に延命させるから、日本経済は新陳代謝が起こらず生産性はいつまでも向上しないのだ。