もし、ジャイアンツに勝てる球団を作るとしたら…

「ある先輩幹部から教わったのですけれど、『上司の役割は部下の持っている制約条件をひとつずつはがしていくことだ』と。

「部下に何かを指示する。できませんと言ってくる。それに対して、上司は制約を外してやる。

お金が足りないのだったら、じゃあ、もう少し予算を出す。人が足りないのだったら、部下を付ける。もしくは部下を採用してもいいよと言う。外部の人を雇ってもいいとも言う。

そうやって制約をはがしていくと、『世の中にできない仕事なんてないんだ』と、その先輩は言ってました。

例えば、読売ジャイアンツに勝てるような野球チームを作ってみろと部下に言う。『できるわけないですよ』って返ってくる。上司は『本当にそうか。では、阪神タイガースを買ってやる。大リーガーも連れてきてやる。ピッチャーと指名打者は大谷翔平だ。これならジャイアンツに勝てるだろ』。これがトヨタの考え方なんだって言われました。

僕に大谷を連れてくることはできませんけれど、部下が『できません』と言ってきたら、制約条件は外してやろうと思ってます。部下には制約条件なしで考えろと言ってます。

やりたくない理由を探してきて、できませんという人、いるでしょう。それには次々と制約条件を外して、とにかくやってみろと言うしかない。上司が『なんでお前はやらないんだ』と怒ったって、部下はプイって向こうを向いてそれで終わり。怒ったって仕事にはなりません」

この部下の制約条件を外していくというのは管理職であれば覚えておかなくてはならないことではないでしょうか。

トヨタは合理的な会社です。部下に無理な仕事を命ずる会社ではありません。

タブレットを持つ部下に、書類を広げて説明する上司
写真=iStock.com/kazuma seki
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あえて「頑張るな」と声をかける理由

小寺さんは部下に「大切な仕事をやる時は自然体で」と伝えているそうです。

「自然体っていう言葉が好きで、心がけるようにしています。人間、肩に力が入ると暴投が出るんです。あとから肩が凝ったりもしますしね。

でも、いかに自然体でいられるかとばかり考えてしまうと緊張して体が固まってしまう。自然体になることが難しい。

柔道では自然体が一番強いとされているそうです。どこから力をかけられても、一番強いのが自然体。だから、気楽にして、力を抜くのがベストなんですけど、なかなかそうはならない。ただ、ひとつ言えることは『よしやるぞ!』と思わないこと。上司も『頑張れ。精いっぱいやれ』とは言わない。

『いいか、大切な仕事をまかせるから、頑張っちゃいけないぞ。頑張るとお前のよさが消える。だから、頑張るな』。そう伝えることにしてます」

部下に「頑張るな」という上司は多くありません。しかし、トヨタにはそういう人が何人もいます。経営者がまずそう言っています。