本物を知っている人の間でじわじわ広がる

「まあ、それでもすぐにはヒット商品にはならなかった。ただ、日を追うごとに売れていくようになりました。本物を知っている人たちが買ってくれたんです。

例えば商社でタイに駐在していた、と。定年で戻ってきて、ある日奥さんに、『本物のタイ料理を食べたいな。だが、日本ではそんな店は少ないな』と。そういう人がある日、スーパーで当社のグリーンカレーを見つけて買ってみる。食べてみたら、『ママ、あのときの味だ。これからはたまに買って食べようじゃないか』。そういうふうに広まっていった。今は違いますよ。コンビニでもうちが作っているタイカレーを売っていますから」

三林は販売促進もやった。代々木公園で開かれた第1回タイフードフェスティバルにブースを出店した。イトーヨーカドーにも売りに行った。そうして、地道にセールスを重ね、売り上げが上がってきた2004年にはタイに新工場を建設した。工場を経営するサイアムヤマモリ社は日本向けだけでなく、タイ国内やASEAN諸国にも調味料を輸出している。

2005年には名古屋駅に近い納屋橋に本格的タイ料理店「サイアムガーデン」を出店した。今も在東京タイ王国大使館と連携して「タイ料理の夕べ」を開催している。情熱の人である。

10人中10人に売るよりも「1人で3個」

ヤマモリのタイカレーは3種類で始まったが、ガパオ、パッタイなど汁物以外も増えて、現在、20種類を超えている。加えて、ナンプラー、ココナッツミルクのようなタイの調味料も扱うようになった。情熱はタイカレーだけではなく、タイフード全体に向いている。

薬膳料理研究家 パン・ウェイさん監修「いのちのたねシリーズ」
撮影=プレジデントオンライン編集部
薬膳料理研究家 パン・ウェイさん監修「いのちのたねシリーズ」

三林は大声で叫ぶように言った。

「売れるのはグリーンカレーが圧倒的ですよ。それからマッサマンカレー。これは2011年にCNNトラベルが『世界で最も美味しい料理ランキング50』(The world’s 50 best foods)を選出した時、マッサマンカレーを1位に選出したからです。それ以来、ずっと売れてます。

タイカレーは1個、300円の値段をつけました。一般的なカレーのレトルトを見ると、100円台ですよ。それなのに300円の売価をつけたのは10人中の10人に売ろうと思ってないからです。10人のうち1人が『これはいい』と3個買ってくれたらありがたい。そう思って値付けしました。コアなファンをつかむ商品だから、尖ったままの個性にしてある。そうしてうちのタイカレーはマーケットのシェアトップになりました。コアなファンにガッチリと支持されているロングヒット商品です」