携帯・スマホを4時間以上使う生徒は、家で2時間以上とかなり勉強して知識も記憶も増えているはずなのに、家での勉強時間が30分~2時間の生徒と成績が変わらないのです(右端の白とグレーが同じ高さ)。

しかも「家でほとんど勉強せず(30分未満)、携帯・スマホの使用時間が2時間未満の生徒」より成績が低いのです。

ということは、自宅学習のぶんはおろか、学校で学んだことまでも相殺されてしまっているかもしれないということなのです。これは深刻な事態です。

この結果から想定される“最悪”の仮説は、携帯・スマホの長時間使用によって、学校での学習に悪影響を及ぼす何かが、生徒の「脳」に生じたのではないか、というものでした。

可能性①は、学校の授業で脳の中に入ったはずの学習の記憶が、消えてしまった。可能性②は、脳の学習機能に何らかの異常をきたし、学校での学習がうまく成立しなかった。当時は、あくまで仮説であり可能性でしたが、ただ事でないことは間違いありませんでした。

急いで家に帰る高校生たち
写真=iStock.com/Juergen Sack
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7万人超の小中学生を追跡調査で分かったこと

ただし、いては事をし損じます。結論を出すには、まだ早すぎました。じつは当時の調査には、いくつか問題点があったのです。お読みになって、この点はどうなっているのだろう、と疑問を感じた読者もおられるでしょう。以下に整理しておきます。

① 「携帯・スマホ」として調査やデータ解析をおこない、この2つを区別していません。当時は、スマホの子どもたちへの普及があまり進んでいませんでした。
② 携帯・スマホで「ゲームもしている」ことを、調査の前提とすべきでした。当時は、ゲームはもっぱらゲーム機で楽しむものと考えていたのです。
③ 単年度の調査だけでは、携帯・スマホを使ったから学力が低下したのか、学力の低い生徒が携帯・スマホを長時間使う傾向があるのか、区別できません。相関関係は明らかでも、因果関係がはっきりしないわけです。
④ 睡眠の影響をとらえきれていませんでした。教育の世界では、睡眠時間の短い子どもたちの学力が低いことは“常識”になっていました。

ですから「携帯・スマホの使用時間が長いから、学力が低下する」かもしれませんが、「携帯・スマホの使用時間が長いから、睡眠時間が短くなり、そのために学力が低下する」のかもしれません。後者であれば、学力低下の直接の原因は睡眠時間で、携帯・スマホの長時間使用は間接的な原因となるわけです。

こうした問題点を解消しようと、仙台市と私たちのさらなる調査・研究が始まりました。最初にやったのが、仙台市教育委員会と相談のうえで、7万人を超える児童・生徒(小中学生)1人ひとりにID番号を振り、平成26年度調査から追跡できる環境を整えたことです。