同じような商品では付加価値は生まれない

――給料を上げるためには、中小企業はどうすればよいのでしょうか。

デフレを乗り越えて賃上げを実現するには、「適正な価格転嫁の実現」「生産性の向上」「差別化戦略」の3つが大事になってくると思います。価格転嫁については、成功事例として、過去の原価や売価の推移記録をエビデンスとして取引先に示し、「だから値上げが必要です」と説明することで価格転嫁を実現した企業があります。

2番目の生産性向上については、中小企業はデジタル化の遅れなどもあって、労働生産性が大企業のおよそ半分だと言われています。逆に言えばその分伸びしろがあるということですから、中小企業庁の支援制度などを活用しながら、ぜひ生産性向上に取り組んでいただきたいと思っています。

そして3番目の差別化戦略ですが、日本がデフレの中で価格競争に陥ったのには、各企業の商品やサービスが同質的だったことも一因になっています。今後は中小企業も商品の付加価値を高めて差別化を図り、自ら価格決定力を持っていくべきです。ブランド構築に取り組んだことで取引価格の引き上げに成功した企業もあります。私たちも、そうした事業再構築の取り組みを応援していきます。

下請けいじめでは「下請けGメン」を配置

――中小企業庁の支援策を教えてください。

まず価格転嫁の実現については、親事業者との取引の問題点などを調査する専門調査員「下請けGメン」を配置し、下請け企業の方々への聞き取り調査などを実施しています。2022年3月の調査では、多くの下請け企業では価格転嫁が十分にできておらず、22.6%はまったくできていないという厳しい結果が出ました。中でも深刻なのは、発注側企業がその立場を利用し下請企業にコスト増のしわ寄せを被らせるいわゆる「下請けいじめ」です。

取引先に価格転嫁について相談しようとしても、「値上げを言える立場か」「そんなことを言うなら他社に乗り換える」などと言われてとても協議できるような空気にならない、そうした声がたくさん届いています。そのため、私たちは価格転嫁を実践するためのマニュアルづくりや、公正取引委員会との連携強化などを通して取引の適正化に取り組んでいます。

適正な取引をしていない親事業者には、下請け事業者からどう見られているかという調査結果を伝えて指導や助言を行うこともあります。親事業者に「あなたの会社は下請けからちゃんとした取引をしていると見られていませんよ」と示して、親事業者の経営者に直接改善を促すわけです。もちろん、下請事業者が後で仕返しされないよう保秘は徹底します。悪質な場合は、公正取引委員会と連携してさらに踏み込んで対応することもあります。