ビス1個、ナット1個の値段を知っているか?

私自身、よく製造現場に足を運んだものです。そうすると、原料が片隅にこぼれている。1キロいくらの原料がバラバラッとこぼれている。もう身が切られる思いがするわけです。すぐにみんなを呼び集めて、「なんで原料がこぼれているのだ」と怒ったりしたものですが、現場では忙しく一生懸命に働いているものですから、例えば組立工場ではビスやらナットが、手から滑り落ちてこぼれてしまいます。

そういうビスやらナットが何個か落ちているのですが、ベルトコンベアの流れ作業ですから、それを拾っていたのでは間に合わない。ですから、こぼしたままでどんどん組んでいかなければならない。しかも、落ちたビスやらナットを作業者が踏んづけてしまうものですから、拾っても使えなくなってしまう。そういうものがゴロゴロ、ゴロゴロ落ちている職場を見ると、こんなことで採算が合うわけがないと思ってしまうわけです。

私は製造現場でビスが落ちているのを見るたびに、「ここにビスが3個落ちておるけれども、これは1個いくらなのですか」と聞くのです。大抵は「へえ」という答えしか返ってきません。誰も知らないわけです。ですから、「これはいくらなんですよ」と教えてあげなければならない。つまり採算意識とは、まず自分が組んでいるビス1本、ナット1本は何銭するのか、何円するのかを知ってもらうことから始まるわけです。

そういうものを全部教えて、みんなに採算意識、コスト意識を持ってもらうようにしていく。このことを痛切に感じたものですから、私はこの「採算意識を高める」ということを一生懸命にやってきたわけです。経営者はもちろんのことです。採算意識というよりは、原価意識を高めると言い換えたほうがいいと思います。原価意識を持って経営をするのはもちろんですが、従業員一人ひとりにまで、原価意識を高めるように教育することがたいへん大事です。

大企業になっても倹約を旨とする

私たちは余裕ができると、ついつい「これくらいはいいだろう」とか、「何もここまでケチケチしなくても」というように、経費に対する感覚が甘くなりがちです。そうなると、各部署で無駄な経費がふくらみ、会社全体では大きく利益を損なうことになります。そしてひとたびこのような甘い感覚が身についてしまうと、状況が厳しくなったときに、改めて経費を締めなおそうとしても、なかなか元に戻すことはできません。ですから、私たちはどのような状態であれ、常に倹約を心がけなければなりません。出ていく経費を最小限に抑えることは、私たちにできる最も身近な経営参加であると言えます。(『京セラフィロソフィ手帳』より)

つまり、経費を最小限に抑える仕事をしてもらうことが、最初にできる経営参加なのですと、ここでは言っているわけです。