「日中は普通、朝晩は特急」の車両が増えた理由

ラッシュ時の混み合った車内を避け、追加料金を支払ってでも快適通勤をしたいという人はコロナ禍以前から増えていた。定期券で利用できる小田急ロマンスカーや国鉄・JRのホームライナーなど通勤向け座席指定列車は古くから存在したが、現在のブームの嚆矢こうしとなったのは2008年にデビューした東武東上線の「TJライナー」だ。

それまでの座席指定列車は特急型車両を使用する例が多かったが、TJライナーは通勤用のロングシート(横向きの座席)と、ライナー用のクロスシート(前向きの座席)を切り替え可能な座席転換型車両を用いたことが革新だった。

座席指定車両に特急型車両が用いられるのは、日中を中心に運用される特急列車は朝・夜ラッシュ時間帯に車両が余るので、それを有効活用するためだ。すでにある車両を有効活用するのであればともかく、ライナー用に朝晩しか使わない特急型車両を新造するのはまったく割に合わない。

一方、座席転換が可能な兼用車両ならば、日中は普通列車、朝晩はライナーなどさまざまな用途で使用できるため無駄がない。また通常の通勤電車に座席転換機能を付与するだけなので、車両製造費も高額にはならず、元が取れるようになったのである。

業界に「座席指定列車」ブームが訪れている

TJライナーの成功を受けて、西武鉄道は2017年に池袋線と地下鉄有楽町線を直通する「S-TRAIN」、2018年に西武新宿線・拝島線直通「拝島ライナー」の運行を開始。また同年、京王電鉄が京王本線と京王相模原線に「京王ライナー」を導入。2020年6月には東京メトロ日比谷線・東武伊勢崎線に「THライナー」が登場するなど、座席指定列車ブームが到来した。

だが今後、私鉄の座席指定列車に新しい潮流が来るかもしれない。全車両が指定席の専用列車を運行するのではなく、JRの普通列車グリーン車のように、通常の列車の一部車両を指定席とする考え方だ。

先んじたのは大阪と京都を結ぶ京阪電気鉄道だ。2017年から特急を中心に運用される8000系車両に座席指定特別車両「プレミアムカー」の連結を開始。2021年1月に3000系車両にも連結し、1日あたり計177本の列車でサービスを提供している。

2018年には東急電鉄が、大井町線の夜間下り急行列車の一部に座席指定車両「Qシート」を連結して運行を開始した。9月1日付東洋経済オンラインのインタビューで福田誠一社長は「利用率8割程度と好調で、夕方6~7時台はほぼ100%に近く根強い需要がある」とのこと。東急は今後、東横線にも「Qシート」を導入する意向を示している。