「税金の無駄遣い」から一転、「早く再開を」

今回の失敗に関する反応で目立ったのは、世論の風当たりが、以前ほど強くないことだ。

私は30年以上にわたって宇宙開発を取材しているが、前回の2003年の「H2A」失敗までは、「税金の無駄使い」「海の藻屑になった」などとかなり厳しく批判された。

昭和、平成時代には、一般の人々の間では「ロケットよりも福祉や医療にお金を回すべき」という声が強く、打ち上げ失敗に対する世の中の目は厳しかった。

だが、今回は「技術者が委縮しないように」などと技術者を支援したり、早く再開を訴えたりする声もSNSなどで目立つ。

一人ひとりが情報を発信できる時代になり、ロケットに限らず、技術者の苦労や本音などが表に出てきやすくなったことや、ロケットの重要性が人々に伝わりやすくなったことがもたらした変化なのかもしれない。

現在の若い世代はロケットの打ち上げ失敗をリアルタイムで知らないこともあるだろう。ロケットは必ず成功するものと考えている世代にとっては、19年ぶりの失敗、「指令破壊」というバズワードめいた言葉が、新鮮に響くのかもしれない。

打ち上げ準備中のSpaceXクルードラゴン
写真=iStock.com/EvgeniyQ
※写真はイメージです

6回目の失敗に「気のゆるみ」があったか

問題はいつロケットの打ち上げを再開できるかだ。

前回の2003年の「H2A」失敗時には、打ち上げ再開まで1年3カ月を費やした。JAXAの原因解明結果などを基に、文部科学省の有識者会議が調査報告書をまとめたのは、失敗から4カ月後。だが、その後、政府内の手続きに時間を取られる。

有識者を集めた検討会が、文科省に新たに2つ設けられ、内閣府も会議で検討した。そうした場所での審議に時間がかかった。

議論は公開で行われたので、私も傍聴取材を続けた。だが、同じ説明資料を用い、同じような議論が繰り返され、責任逃れと時間稼ぎをしているように見えた。

役所も有識者も、ロケット打ち上げ再開のお墨付きを与えた後で再び失敗するようなことがあれば、自分たちの責任が問われる、と心配しているようだった。それが嫌で互いに判断を押し付けあっているように感じた。

今回はそうした責任逃れを排し、技術課題を解決したら早く判断すべきだろう。

もっと技術を磨く必要もあるだろう。

今回の「イプシロン」と、前回の「H2A」には、どちらも6回目の打ち上げでの失敗という共通点がある。慣れによる気のゆるみがあった可能性がある。

2003年の失敗時に「H2A」に搭載されていたのは、事実上の偵察衛星である情報収集衛星2基。情報収集衛星は北朝鮮のミサイル発射をきっかけに導入された。その衛星を2基同時に失ってしまったマイナスイメージは大きかった。

その後、情報収集衛星の打ち上げ中断が3年近く続いたため、イスラエル政府が日本政府に対して、「ウチのロケットで打ち上げませんか」と言ってきたこともある。