棺桶に入れたい作品を

三浦 ところで、この映画は儲けが出るんですか?

 いい質問ですね(笑)。簡単に言えば、かかったお金の4倍、いや6倍ぐらい回収できると、元を取ったぐらいの感覚ですかね。というと、3億円ぐらい入るといいっていうことですね。

三浦 「MY HOUSE」をつくるときに、周りの方はなんて言ってましたか。

 やめたらって言われました(笑)。「何を言ってるんだ」って一刀両断。ある配給会社の社長さんは、「俺、嫌いなんだよ、ホームレス」って、一言で終わり。それはヤクザが嫌いだからヤクザ映画を作らないとかって言っているのと同じ感じで、「ああ、そうですか」って、すごすごと引っ込みましたね。別の方には「鈴本さんの持つ天真爛漫さと力強さはひじょうに面白いので、ヒリヒリする感じではなく、もう少し寅さんみたいに、子供がワーッと寄ってくるみたいな感じになりませんか」と言われて、脚本も書き直したことがあったんですが、「これは違うな。この脚本は原作の坂口さんに見せられないな」と思って、その脚本はご破算にしました。

 もともと「アエラ」で坂口さんの記事――のちに『TOKYO 0円ハウス 0円生活』になる話を最初に読んだときに、このストーリーラインはもうできていたんです。それで6年前に坂口さんに会いに行き、モデルになった鈴木さんもご紹介していただいたんですけど、そのときの原点に戻して作ったのが「MY HOUSE」ということですね。

 50歳半ばになって、やっとなんとか職業作家としてご飯を食えるようになり、チームを食べさせることが少なからずできるようになって、たとえば今の僕には、駄目になっていった地域、駄目になっていく地域に対して、何かできることはないだろうかという視点もあります。この僕にも大学の客員教授をやってくれみたいな話もあり、そこで地域振興の研究をこの数年させてもらっていたりします。

 映像による地域の盛り上げみたいなことができないかというお話しもあって、僕がベースにしている東海地区の方々と連携しながら、まったくのボランティアなのですが、できることをしようと。最近は、愛知県の高浜という人口5万の町から、「子供たちが将来に希望を持てるイベントを考えてくれ」と声をかけていただいて、「1年かけてドラマを作りませんか」という提案をして、ついこの間、数千人集まるクライマックスシーンを撮り終えたところです。これから町で繰り返して上映し続けていくことになっています。このドラマは、10年もすると、出演している子供たちにしてみればタイムカプセル的なものになります。マスコミがこういうことの意味にも気付いてくれればいいなと思いながらやっているのですけれど、そのようなことを「社会派」と言っていいのか、ちょっとわからないんですけれど、今できることを、今までは抑えてきたけれども、これからは隠さずにやろう、と。

三浦 僕は50歳になったときに「あと10年生きているかどうかわからない」と思ったんですよ。スーちゃんだって57歳で死んだ。自分の同級生や会社の後輩も何人も死んでいます。そうすると、やっぱりやりたいことを全部やって死にたいなと思うようになりました。

 50歳過ぎると、やたら行動的になるんですよね(笑)。「MY HOUSE」のほんとうの裏コンセプトは、棺桶に入れたい作品を作りたいという、ひじょうに身勝手なものなんです(笑)。

三浦 わかります。僕ももっと売れる本とか、もっと儲かる代理店の仕事とか、探せばあるのでしょうけれども、やりたいことを全部やっておきたいという気持ちがありますよ。

次回予告

「実は似たような映画があるんですよ」と三浦さん。そう言われて「ドキドキしますね」と堤監督。その映画とは何か。そして話題は映画の舞台・名古屋のホームレス&学歴社会事情へ。堤監督が「MY HOUSE」を名古屋で撮った真の理由が明らかにされる。コメ兵ファンおよびザ・フーのファン必見の次回《なぜ、この映画を名古屋で撮ったのか》は5月29日オンサイトの予定です。

(構成=PRESIDENT Online 編集部 撮影=佐藤 類 撮影協力=LwP asakusa)