隠れて交際していた女性はうつになり、その後…

桜木さんによれば、信者は奉仕活動や聖書の勉強に時間を使うように指導されるため、義務教育後の進学や拘束時間の長い仕事はほとんどできないという。子供の頃から絵が好きで、「将来は車のデザイナーになりたい」と考えていた桜木さんだったが、拘束時間長く、両親にも反対されたため、その夢は潰えた。

桜木さんが住む地域の信者の子供は、中学を卒業すると、月曜1日だけ登校する4年制の通信高校に入学するのが普通だった。

「周りはおじさん、おばさん、ヤンキー、信者という感じでした。七三分けのHくんも同じ高校で、学校帰りにエロ本を立ち読みしているのを見かけ、『こっそり禁忌を破ってるのは私だけじゃなかった!』と思いました」

高2になると、同級生で同じ信者のYちゃんに告白され、隠れて付き合うことに。2人でランチをしたり、カフェで何時間も話したり、駅まで手をつないで歩いたりと、楽しい時間を過ごしたが、その時間は長くは続かなかった。

ラテアートを施しているバリスタの手元
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付き合い始めて半年ほど経ったある日、Yちゃんから「大事な話があるの。私、うつ病って診断されちゃった」と打ち明けられる。

「信者になると、男女が2人きりになるのも、手をつなぐのも禁止。教えを破ればハルマゲドンで死。常に誰かに監視されているような状況で、真面目な人はうつ病を発症してしまうケースが多かったと思います。うちの母もそうでした」

桜木家では入信後、父親が暴力的になり、夫婦げんかが増えた。だが、それが他の信者にバレると排斥される恐れがあったため、母親は、父親の暴力や夫婦げんかをひた隠しにしているうちに、うつ病を発症。桜木さんが中学に上がる頃には、起き上がれなくなったり、常に泣いていたりという日が続いていた。

Yちゃんも、桜木さんとの交際を継続したいという欲求と、教団の教えに背いているという罪悪感との板挟みで、心を壊してしまったのかもしれない。

それから2カ月後、Yちゃんは自死し、帰らぬ人となった。

Yちゃんの葬儀で悲しんでいたのは、Yちゃんの家族と桜木さんだけ。信者たちは死者の復活を信じているため、誰かの死を必要以上に悲しむのは神を信じていないことと同義となる。だから他の信者たちは、「Yちゃんは楽園で必ず復活するので、楽しみにしましょう」「自死だったけど、Yちゃんはうつだったから、神は寛大に愛を与えてくださる」と明るく話していた。