客離れを懸念して値上げに踏み切れない企業は多い。マーケティングに詳しい小阪裕司さんは「価格にうるさいお客は、本当に大切なお客ではない。値上げは優良な顧客を絞り込むチャンスでもある」という――。

※本稿は、小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/anouchka
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いったん値引きをやめてみる

物価が上昇する中、値上げが不可避になっている企業は多い。しかし、今まで価格の安さを訴求してきたメーカーや、値引きで顧客を集めていた店は、「顧客が一気に離れていってしまうのではないか」という恐れから、なかなか値上げができない。

もちろん不安はあるだろう。しかし私の答えは、「いったん、スパッと値引きはやめる」、そして「必要な値上げはやる」というものだ。

一時的には顧客が離れていき、売上が下がることもあるだろう。安さを求める客は必ず一定数以上いるから、そうした人は確実にいなくなる。しかし、数々の事例を見ていると、「思ったほどは落ちない」「まったく落ちなかった」というケースが多いようなのだ。

値上げの決断の経緯をお客にきちんと説明する

一例として、東京都八王子のペットサロン「リーデレカーネ」が値上げに踏み切った経緯を見てみよう。

同社は2022年5月、同社が営むサービスのうちトリミングとペットホテルの料金を大幅に値上げした。その背景にはご多分にもれず、燃料、光熱費、備品などの価格が軒並み上がってきたこともあるが、そもそも業界全体としてトリミング料金が安すぎるという問題もあった。いつかはそれを是正しなければ、どのみちこの先、良いスタッフを育て、良いサービスを提供し続けることはできなくなるのだ。

値上げにあたって店主・原口八恵子氏は、世の中の流れに便乗し、単に「大変だから値上げします」としたくはなかった。これまでの経緯、意図があっての値上げであること、ある意味苦渋の決断でもあることをしっかり伝えたいと考えた。

そこで、事の経緯や背景を、定期的に発行しているニューズレター「スマイルドッグ通信」に書き、店のLINEや店頭のカウンターでも、「トリミングと、ペットホテル料金の値上げを行います。この苦渋の決断の経緯とお客様に対する思いがスマイルドッグ通信に綴られています。ご一読お願いします」と発信し、訴えた。