これまでは見逃されていた無賃乗車も防げる

ジェノバの公共交通機関の運賃ルールは「100分以内で乗り継げば1.50ユーロ」あるいは「1日乗車券は4.50ユーロ」となっている。この料金水準は欧州の都市交通としてはとても低廉だ。しかもこの街では「信用乗車方式」を導入しており、この場合、無賃乗車など一定数の不正利用者が出てしまうことは許容せざるを得ない。新たなシステムの導入で未払いによる不正乗車を削れるなら、事業者としても一石二鳥以上のメリットを受けることができるといえよう。

世界的に見て、電車やバスに乗る方法は大きく2つに分類できる。第1の方法は日本で行われているような「改札」の方式だ。切符やICカードを持つ利用者を自動改札機や駅員の目視でチェック。改札内とその外とが柵で厳重に分離されており、不正乗車の多くを防げる。

第2の方法は、欧州諸国で浸透している「信用乗車方式」と呼ばれるもの。乗客は「切符を持っている」という性善説で運用されるものの、不正乗車が見つかると多額の罰金が取られる。これは、改札口を設けて駅係員を置いたり、自動改札機を設置したりするよりも、車内で検札を行ったほうが不正乗車防止に効率が良い、との考え方による。しかし、実際には無賃乗車をする者が後を絶たない。

世界初の第3の運賃システムを編み出した

では、日立が考案した「360パス」は、課金方法の第1、第2のどちらに属するのだろうか。日立の広報担当者に疑問をぶつけてみたところ、「第1、第2のどちらでもない」との答えが返ってきた。

ジェノバでのGoGoGeの運用を見ると、地下鉄駅ではもともと設置されていた自動改札機は開け放たれてその役目を終えており、第1の方法を廃止した格好となっている。どちらかといえば、第2の方法により近いかもしれないが、切符を廃止、そして課金の機能をスマホに任せるといった2つの点でアプローチは大きく異なっている。

ジェノバの地下鉄には改札があるが、それも今後は不要になる
筆者撮影
まるで美術館への入り口のようだが、この先に「エレベーター乗り場」がある

こうした背景から、日立の「360パス」は交通機関における課金方法について、世界に例を見ない第3の方法を生み出した、といっても過言ではないだろう。

日本のように、駅の券売機や改札機が故障なく“完璧”に動いている国はむしろ少数派かもしれない。特に信用乗車方式を用いている国々では、駅や停留所の目の届く範囲に券売機がない、あっても壊れているといったトラブルも多い。こうした時、現地事情が分からない旅行者は「悪意はなくとも、切符を買いたくても買えない」というケースに直面する。