スポーツ医学の観点からも改革は必要不可欠

NPB球団や高校野球の強豪校でトレーナーを務めたこともあるアスレチックトレーナーも今夏の甲子園を観て、「たくさんのお金をかけるか、時間をかけるかが勝負のポイントになっている」と、勝利=お金という実態をボヤいていた。

優勝した仙台育英には「フレックスコース」、準優勝した下関国際には「普通科アスリートコース」があり、一般的な高校と比べて部活動に費やせる時間が多い。さらに両校とも「野球特待生制度」(全国376校)を申告している。時間もお金もかけているといえるだろう。

そして前出のトレーナーが最も心配していたのが選手の“状態”だ。

「部員が多いとトレーニングがまわらないし、ケガの対処も難しい。炎天下に試合を行うのも賢いとはいえないですね。高野連は熱中症対策をしているというが、アイスバス(氷風呂)を用意しているわけでもない。それにケイレンを美談にするマスコミも良くないですよ。何より一番の問題は投手の投げ過ぎです。球数制限ができたとはいえ、勝ち抜くために練習でも投げ込みをしていて、トミー・ジョン手術を受けている選手も少なくないですから」

ひじのけがをした選手に行うトミー・ジョン手術を受けた4割が高校生以下であることが明らかになっている(群馬県館林市の慶友整形外科病院で10年以上にわたって600件以上の手術を行ってきた医師による分析、2019年発表)。そのなかで高校野球は2020年から1人につき「1週間で500球以内」の球数制限が設けられたが、世間への「やってます」アピールにしか感じないという指摘もある。

球児たちとボール
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです

先発投手はMLBが中4日、NPBは中5~6日が基本。プロの選手でも1週間で300球以上を投げることは少ないのだ。フィジカル的に未熟な高校生の球数はもっと少なくする必要がある。

そういう意味では今夏の仙台育英の戦い方は革新的だった。全5試合を5人もの投手で継投。5人の球数は213球、188球、124球、122球、81球と特定の投手に頼るような戦い方をしていなかった。チーム内に140キロ以上の速球を持つ選手が十数人いて、複数の投手で継投することを前提にチーム作りをしてきた結果といえるだろう。

投手の身体を守るには、「1週間で250球」くらいシビアな球数制限を設けるか、スケジュールを見直して、公式戦は1週間に1試合ペースで組んでいくしかない。

いまだに大半の球児が丸刈りだが、短くすると野球がうまくなるエビデンスがあるわけではない。丸刈りでないと、「相手チームに笑われる」「練習試合が組めない」というネガティブな理由も一部では残っているようだ。

アメリカでは野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法=セイバーメトリクスが普及している。その中で、送りバントは得点を上げるには効率の悪い攻撃で、MLBではほとんど使われていない。NPBでも近年は徐々に減っている。打撃技術的にプロ選手に劣る高校野球でのバント作戦はある程度はしかたないにしろ、多くの練習時間を費やすのはもったいない。

高校野球に限らず、多くのスポーツ団体は非常に閉鎖的だ。自分たちがやってきたことが“当たり前”だと思い込んでいる人たちが多い。そうした昭和的な古いやり方に固執せず、もっと論理的・科学的に考えて、多くの人が納得できるような仕組みを考えていくべきではないだろか。

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