自覚症状なくいきなり発症することが多い

血液の供給量が減った心筋は、酸素不足を招きます。狭心症は、酸欠によって胸が痛くなる病気ですが、胸痛以外にも背部痛や圧迫感、さらに歯痛、上腕の痛み、などさまざまな症状が生じます。酸素の需要と供給のバランスが改善されれば症状は消え、心筋の働きは回復します。一時的に痛みなどの症状があっても、心不全にまではなりません。

ただし、冠動脈の狭窄きょうさくが進み、心筋の酸素不足が慢性化すると心不全になる可能性があります。とくに、プラークが傷つき、血栓によって冠動脈が閉塞へいそくしてしまうと、心筋は大きなダメージを受けて心不全を発症してしまうのです。これが、心筋梗塞です。

心筋梗塞は冠動脈が詰まって、心筋にまったく血液が届かなくなる病気。心筋は酸欠におちいり、壊死えししてしまいます。多くの場合、自覚症状がなく冠動脈硬化は進行し、ある日突然に心臓発作に襲われて命を奪われます。栄養素と酸素の欠乏で、心筋が急速に壊死を起こしてしまうのです。

発作時の胸の痛みや息苦しさは、迅速な治療により改善しますが、たとえ命が助かったとしても、壊死した心筋は元に戻らず、脳卒中と同じで寝たきりにつながる大きな後遺症が残ることもあります。心筋梗塞は狭心症が悪化して生じると考える人が多いようですが、実際は、狭心症の自覚症状を感じないで、いきなり発症することが多いのです。

40歳を超えると大半の人が動脈硬化状態になっている

一般的に、狭心症は冠動脈に80%以上の狭窄が生じる場合に発症します。ところが、プラークは傷つきやすいため、たとえ冠動脈の内腔を占めるプラークが小さく、狭窄が軽度であったとしても血栓を生じる原因となってしまうのです。悪しき生活習慣や生活習慣病が改まらなければ、たとえ小さなプラークでも、とても傷つきやすく不安定な状態になります。

動脈硬化のイメージイラスト
写真=iStock.com/Rasi Bhadramani
※写真はイメージです

動脈硬化は、10~20年もの期間をかけて進行します。早い人で、小学校高学年から始まっています。40歳を超えると、大半の人の血管が動脈硬化状態にある、といわれています。20代、30代のころから生活習慣が乱れていれば、動脈硬化は自覚症状がないままに進行の速度を上げ、老化の分かれ道にたたずむころになると、いつ血管事故や突然死に襲われてもおかしくない、「完成された動脈硬化」が現れるようになるのです。

狭心症も心筋梗塞も、30代から加齢とともに増加し、好発年齢(発症しやすい年齢層)は男性では60代、女性は70代。狭心症の発症数は、男女間に違いはありませんが、心筋梗塞は男性で多く発症します。40歳になったら、動脈硬化はすでに始まっているとみて、積極的に生活習慣の改善をしたり、医療機関での検査を受けたりしましょう。