新たな発想、着眼点でサービスを生み出すこともイノベーション

私は年に1度、妻と一緒に東北地方を旅行している。東日本大震災後に、少しでも復興支援になればと思って始めた恒例の旅行だ。

目的地は特に定めず、車を適当に走らせながら、うまそうな飲食店があれば入ってみる、よさそうな工芸品店があれば立ち寄ってみる、そんな自由気ままな旅行である。

宿泊は、その地で一番高い旅館と決めている。それが、最高でも1泊1人5万円くらいなのだ。安くはないが高級でもない中途半端な設定だと思う。

1泊40万円だったら、というのはさすがに酔狂だろうが、1泊10万円くらいだったら迷わず泊まるのに……と、旅行するたびに思う。

しかも、これが北海道に行くと大抵せいぜい2万円なのだ。東北のほうがまだマシというのが日本の現状である。

高級施設がないわけではない。瀬戸内をめぐるクルーズ客船「ガンツウ」は、コロナ禍以前、7泊ほどの旅程で一人約28万円から200万円だった。つまり1泊あたり約7万円から30万円だが、2年先くらいまで予約が埋まっていたという。

日本は海に囲まれているのだから、ガンツウのような業態が日本中にあれば、観光業の風景はずいぶん変わるに違いない。

日本には、とんでもないレベルの金持ちはそれほどいないが、そこそこの金持ちなら相当数いる。1泊10万円ほどで、5万円レベルよりも格段に部屋よし、お湯よし、サービスよしの旅館があったら、ぜひ泊まってみたいと思う層だ。

この層にもっと狙いを定めるようにするだけで、インバウンド頼みではない観光地復興は、割と簡単に叶うだろう。

イノベーションとは、今まで世界に存在しなかった技術などを開発することだけを指すのではない。このように新たな発想、着眼点でサービスを生み出すことだって、イノベーションの1つなのだ。

インバウンドの本当の経済効果はどれほどか

【冨山和彦】成毛さんが指摘した観光業再生の切り口に、少しばかり補足をしてみたい。

インバウンドについては、日本全体でも、もともと経済効果はそれほど大きくなかったと思う。私がバス会社を経営している東北地方だって、以前からインバウンドの「イ」の字もない。

インバウンドが多い地域にしても、実際に落とされるカネは大したことはない。中国人観光客が大型ツアーで大挙してやってきて、ガイドの案内で中国人が経営する土産物店で爆買い、というのがパターン化しているからだ。

京都
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つまり、日本で消費行動をしていても、本当の意味で日本のGDPにはなっていなかったのである。

単価の安い外国人旅行者がいくらたくさんやってきても、サービスを提供する側の付加価値生産性は低いままなので、観光産業は低賃金長時間労働産業になってしまう。

少子高齢化で生産労働人口比率が下がり、構造的な人手不足になっている。そんな労働者を増やす意味はない。

コロナ禍でインバウンドが一休みになっている今こそ、このモデルを転換する大きなチャンスである。