ちまたに広まる医療情報と同じく、育児情報も玉石混交だ。小児科医の森戸やすみさんは「育児デマに困っているお母さん、お父さんがたくさんいる。正しい情報を届けたい」という――。
赤ちゃんを抱きながらスマートフォンを見る女性
写真=iStock.com/Andrey Zhuravlev
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育児の正しい情報を伝えたい

世の中には医療や健康に関する情報があふれていますが、医学的根拠のあるものとないものが混在しています。迷信が広まったり、根拠のない健康法が生まれては消えたり、そしてリバイバルしたりすることも。「長生きしたいなら○○をしなさい」「健康になりたいなら○○をするな」と相反することが言われたり、本になって書店に並んだりもします。根拠のない「健康法」や「治療法」のなかでも命に関わるものに対しては、心ある医師が警鐘を鳴らしたり、消費者庁や厚生労働省が法律に基づく措置命令を出したり、注意喚起をしたりしている状況です。

実は育児に関する情報(小児医療を含む)も同じような感じです。医学的根拠のある育児情報もありますが、根拠の定かではないものも多々あります。根拠のない育児情報のなかには、古くから伝わる民間療法や言い伝えなどの迷信もあれば、ビジネスのために新しく作り出された育児法もあるようです。前者には「ハイハイをするほど足腰が強くなる」など、後者には「オーガニック食品はアレルギーを起こさない」などがあります。前者のようにさほど害がないものもありますが、後者のように健康被害が出かねない困ったものもあるわけです。

私は小児科医として日々診療するなかで、そういった医学的根拠のない育児デマに悩まされている多くのお母さんやお父さんに出会い、「その説は嘘ですよ。気にしなくて大丈夫です」などと説明してきました。さらに、あまりに度々そういう機会があるので、具体的な育児デマを挙げて解説し、正しい育児情報を伝えるためのブログを書いていたところ、こうして書籍やウェブの記事を書いたりするようになったのです。そこで、今回は改めて子育て関連のデマの話をしようと思います。

育児デマは子供を危険にさらす

では、なぜ育児デマは問題なのでしょうか? まず何よりも子供を危険にさらすからです。例えば「子供の食物アレルギーを予防するには、離乳食の開始時期を遅らせるといい」という説があります。でも赤ちゃんが生後5〜6カ月ごろになると、母乳や育児用ミルクだけでは栄養が足りなくなるため、その頃には離乳食を始める必要があります。それに離乳食を遅らせてもアレルギーを予防することはできません。

さらに「代表的アレルゲンは遅く与えたほうがいい」という説もありますが、これも間違い。そもそも日本で食物アレルギーの原因になることの多い卵、乳製品、小麦、ピーナッツ、蕎麦などは「心配だからもう少し大きくなってからにしよう」と考える保護者が多いようです。ところが、実は代表的アレルゲンなどの特定の食物を除去することで食物アレルギーを防ぐことはできないというのが、現在のコンセンサスです。それよりもアレルギーの原因となる物質が皮膚から入らないよう、顔や体に食べ物がついたら小まめに拭く、肌荒れがあったら早く治すことが大切です。そして食事では、アレルギー反応が出なければ多彩な食品を摂るようにしましょう(※1)

とにかく子供はバランスのよい食事を十分に摂る必要があります。例えば、「ヴィーガン食は子供にもよい」という説もありますが、子供が完全菜食を行うと、ビタミンB12欠乏症によって嘔吐おうとや汎血球減少症が起こったり、ビタミンB欠乏症によって「くる病」になったり、精神神経発達に異常を来したり、低栄養状態になったりするリスクがあるからよくありません。つまり根拠のない除去食は手間がかかるうえ、子供の健康を損ねるリスクがあります。

※1 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「アレルギーについて