なぜ「維新の勝利」をあおる空気が強くならなかったのか

選挙結果はご承知の通りである。立憲は17議席と改選議席を6議席減らし、維新は12議席を得て改選6議席を倍増させた。比例の得票では維新が立憲を上回った。前回衆院選からのトレンドは続いているようにも見える。

ところが、政界全体にも、当の維新の側にも、そんな高揚感はみられない。「勝利」を強調できる局面なのに、松井一郎代表(大阪市長)は10日夜、開票結果を見届けることなく辞意を表明した。

筆者は、維新が比例で立憲を上回れば、衆院選以降「維新上げ、立憲下げ」をあおり続けてきたメディアが「維新圧勝!」を騒ぎ立て、次の衆院選に向けた有権者心理に影響する可能性を想像していたが、こうした勝利をあおる空気も、さほど強いものにはならなかった。維新上げの傾向が強い朝日新聞さえ、投開票日翌日の11日朝刊では「議席増でも『力不足』」と指摘した。

新聞の見出しに参院選の文字
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「比例で野党第1党」も選挙区で伸び悩み

維新に勝利感が生まれなかったのは、選挙区での伸びを欠いたためだろう。選挙区で議席を得たのは大阪2、兵庫1、神奈川1の四つだけ。2019年の前回参院選では議席を得た東京でも、今回は議席を得られなかった。

致命的だったのは、維新が最重点選挙区と位置付けていた京都で、立憲との「直接対決」に敗れたことだ。

維新はこの選挙で、立憲の福山哲郎前幹事長の追い落としに全力を挙げた。維新は先の衆院選で、立憲の辻元清美前副代表に選挙区で勝ち、落選に追い込んだ「成功体験」がある。辻元氏と同様に立憲を代表する存在の福山氏を参院選で落選させることで「維新が立憲に取って代わる感」を演出する狙いがあった。

維新はそれまで立憲と共闘していた国民民主党の推薦を取り付け、立憲からの支持の引き剝がしに成功するとともに、選挙戦では松井氏や吉村洋文副代表(大阪府知事)が連日のように京都入りした。まさに総力戦だった。それでも勝てなかった(ちなみに辻元氏は、この参院選で比例で当選し国政復帰を果たした)。

選挙区における勝敗は、比例票の勝敗より、はるかに強い印象を与える。「近畿以外で勝てなかった」「京都で立憲とのガチンコ勝負に負けた」。こうした事実が「比例で野党第1党」のプラスイメージを打ち消した。