警護官にはそれぞれ役割分担がある

——襲撃直後の現場の対応については、どうご覧になりましたか。映像を見ると、1発目の銃撃の後に、防弾カバンを盾にしている方もいました。

現場の警護官は、それぞれ役割を分担しているんですね。警護対象の直近にいる警護官の役割は、警護対象者を絶対に守るということ。そこから1歩下がったところにいる警護官は、防御を担当します。ご指摘のあったように、ケブラーという特殊樹脂製の板の入ったカバンを持っていて、それを開いて防弾盾にするんです。それが本来はだいたい2~3人、警視庁であれば3人で壁を作るんですね。

そうしている間に、警護対象者を襲撃現場から離脱させる。そういう役割分担が決められているんです。

今回見た限りでは、その防弾カバンを広げていた1人はまあいいでしょう。しかし本来は2、3人でもっと大きな壁を作らなくてはいけない。それから、安倍元首相のほうにおおいかぶさっている警護官がいないというのは、私から見れば非常に訓練不足と感じます。全体に動きも鈍いですよね。

図上訓練とあわせ、実際の襲撃を想定した動きの訓練が不足していたから、ああいう形になってしまったんですね。県警の警備部の幹部は警視庁に1年ぐらいSPの研修に来ているはずですから、動ける人員はいたでしょうですが、それを補完する他の警護官にそこまでの経験値がなく、2発目の攻撃も許してしまった。

——自作の銃ということで、1発目の音が銃声だと気づくのは難しかったようにも思います。

何であろうが、異常な音がすればバッと動いて、警護対象者を伏せさせ、速やかに現場から離脱させるのが本来の動きです。公安部の警察官が職務質問をして、危険と思われる人物が1人見つかったというときも、同様に素早く現場を離脱します。襲撃者が1名いれば、2名以上いる可能性もありますから。機動警護班が車両を近づけて、SPが警護対象をエスコートしながらさっと車に乗せるといった訓練も警視庁ではやっています。