アメリカでは、牛乳の小売価格が3カ月のうちに1リットル30円も上がった。

つまり、消費者も小売・流通業者も、皆が自分たちの大事な食料を守ろうとするシステムが機能して、値上げができた。

このシステムが働かないのが日本である。

企業も買い叩いて儲かればいい、消費者も安ければいいと……。こんなことをやっていて、生産者がやめてしまったら、ビジネスはできないし、国民は食べるものがなくなる。泥舟に乗ってみんなで沈んでいくようなものだと認識して、どうやって自分たちの食料を守っていくのかを考えなくてはいけない。

ちなみに、カナダの牛乳は1リットル当たり約300円で、日本より大幅に高い。

だが、消費者はそれに不満を持っていないという。

筆者の研究室の学生がおこなったアンケート調査に、カナダの消費者から「アメリカ産の遺伝子組み換え(GM)成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられていた。

農家・メーカー・小売のそれぞれの段階で十分な利益を得た上で、消費者も十分に納得がいくなら、値段が高くて困るどころか、これこそが皆が幸せになれる持続的なシステムではないか。

「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」がカナダでは実現されているのである。

「既得権益」として日本の農協を攻撃するウォール街

官邸の人事権の濫用による行政の一体化によって、国民の将来が一部の権力者の私腹を肥やすために私物化されつつある。

農協改革も、種子法廃止と民間への移譲も、種苗の自家採種の制限も、「遺伝子組み換え(GM)でない」の表示の実質的な禁止も、漁業権の強制的付け替えも、民有林・国有林の「盗伐」合法化も、卸売市場の民営化も、水道の民営化も、根っこはすべて同じ、「オトモダチ」への便宜供与とみたほうがわかりやすい。

「いまだけ、カネだけ、自分だけ」の「3だけ主義」の対極に位置するのが、命と暮らしを核にした共助・共生システムである。

逆にいえば、一部に利益が集中しないように相互扶助で小農・家族農業を含む農家や地域住民の利益・権利を守り、命・健康、資源・環境、暮らしを守る協同組合組織は、「3だけ主義」者には存在を否定すべき障害物なのである。

そこで、「既得権益」「岩盤規制」だと農協を攻撃し、「ドリルで壊して」(安倍元総理の表現)仕事とおカネを奪って、自らの既得権益にして、私腹を肥やそうとするのだ。

例えば、アメリカ政府を後ろ盾にしたウォール街は、郵貯マネーに続き、農協の信用・共済マネーも喉から手が出るほど欲しいがために、農協「改革」の名目で信用・共済の分離を日本政府に迫る。

農産物の「買い叩き」と資材の「吊り上げ」から農家を守ってきた農協共販と共同購入も障害となる。

だから、世界的に協同組合に認められている独禁法の適用除外さえ、不当だと攻撃しだす始末だ。

そして、ついには、手っ取り早く独禁法の適用除外を実質的に無効化してしまうべく、独禁法の厳格適用で農協共販つぶしを始めた。

「対等な競争条件」の名目で、いっそう不平等な競争条件が押しつけられようとしている。

現状は不当な買い叩き状態なのだから、独禁法の適用除外をなし崩しにする取り締まりを強化するのは間違いで、共販を強化すべきなのである。

他方、大手・小売の「不当廉売」と「優越的地位の濫用」こそ、独禁法上の問題にすべきである。