組織が危うい状況になったとき、日本人はどうするか

詳しくは『日本的「勤勉」のワナ』(朝日新書)で解説していますが、私たちの組織人としての勤勉なふるまいは、武士の信条である「主君に対する忠義を尽くす」ことからすべてが始まっています。主君との関係性において忠義を尽くすことで、自らの「拠り所」(居場所)をつくっていたのが武士でした。

そして、そのような在り方は、私たち日本人の多くが会社に対して持っている姿勢にも通じるところがあるように思います。会社という存在がまさに自らの「拠り所」だということです。そのような傾向は、伝統のある規模の大きな会社や、日本の中心に位置する会社ほど強く残っています。

たとえば、もし会社に重大なコンプライアンス(法令遵守)上の問題が生じて、自分がどう動くかでその問題が世間の目にさらされるかどうかが決まる、という立場に置かれたならどうでしょう。

出世街道を順調に歩んでいる人ほど、「組織を守る」という規範を踏み外さないことが会社員としての大前提になっていることが多く、佐川氏と同じような行動を取る人がいたとしても不思議ではありません。実際、似たようなことは企業の中でも起こっています。

会議室でミーティングする3人のビジネスマン
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善悪よりも「組織を守る」ことが優先される

忘れてはならないのは、置かれている前提を問い直さず、どうやるかしか考えない姿勢は歴史由来であり、ある種の社会規範としてあまりにも深く根付いているために、誰もがそのことがもたらす意味の大きさに無自覚である、という点です。まさか自分が思考停止に陥っているなどとは考えたこともない、ということが往々にして起こりがちなのです。

少し前のデータですが、日本生産性本部が2018年度まで行なっていた「新入社員春の意識調査」の中に、「上司から会社のためにはなるが、自分の良心に反する手段で仕事を進めるように指示されました。このときあなたは……」という問いがありました。これに対し、おおよそ4割程度が「指示の通り行動する」と回答しています。

過去最大だった2016年度にいたっては45.2%です。そして、「わからない」という回答が約半数、「指示に従わない」が1割程度というのがおおむねの傾向です。こうしたことを見ても、善悪はともかく、自分が属する組織を守るという姿勢を優先するのは決して例外的な話ではないということです。