インフレ下でMMT理論はまるで通用しない

日米欧の消費者物価指数を見ると、2021年10月の段階で、アメリカ6.2%、ユーロ圏4.1%と明らかにインフレ基調だ。

しかもアメリカで進行しているのは、コストプッシュではなく、構造的なインフレであり、この先日本にも波及する恐れがある。

黒田東彦・日銀総裁やアベクロ推進のアドバイザーだった浜田宏一教授、そして元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏のようなMMT理論の信奉者は「インフレは恐れるに足らず」というスタンスのようだが、私はMMT理論そのものがまやかしだと思っている。

MMTとは、Modern Monetary Theoryの略で、日本語でいう現代貨幣理論のことだ。政府が自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるのだから、借金を増やしてでも積極的に財政出動をすべきというのだが、これはどう考えてもおかしい。

MMTの論文を読むと、「インフレさえ起こらなければ」という但し書きがついているのである。

また、日本の国債の大半は日銀と日本の金融機関が保有しており、外国人の保有比率が低いので、今のところ金利は安定しているものの、借金であることに変わりはなく、いずれは誰かが返さなければならないのだ。

もし、アメリカのインフレが日本にも波及すれば、現在の国の過剰債務がどうなるかはわからない。もしかすると、これまで低欲望とデフレで表面化していなかった危機が顕在化するかもしれないのだ。

だから、これから先は長期金利の動きをはじめとした経済指標に注意し、同時に最悪の事態も想定して対策を立てておく必要がある。間違ってもMMT論者の楽観論を信じてはいけない。

「新しい資本主義」とは何かがよくわからない

2021年11月、総選挙で勝利した自民党総裁の岸田文雄氏が、第二次岸田内閣を発足させた。

岸田首相が所信表明演説でとくに強調したのが「新しい資本主義」と「成長と分配」という言葉である。

ただ、所信表明演説を何度読んでも、新しい資本主義とは何かがよくわからない。そもそも「新しい資本主義」という言葉を打ち出すならば、それまでの古い資本主義は何なのかを定義しなければならないはずだが、それもない。それどころか、どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ。

たとえば、成長だけでなく分配も大事なのだと言うが、日本は分配ができていないのかというと、そんなことはないのである。

主要国の上位1%の富の保有者の割合をみると、一番大きいのはロシアで58.2%、次がブラジルの49.6%で、インド40.5%、アメリカ35.3%と続く。日本は18.2%で、主要国では最も小さい。つまり、日本は富の集中度が低い、分配の行き届いた国なのである。