2012年4月5日(木)

なぜコダックは破綻し、富士フイルムは好調なのか

コダックは、企業の多角化に否定的な投資家の意向を大切にした

PRESIDENT 2012年4月2日号

著者
加護野 忠男 かごの・ただお
甲南大学特別客員教授

加護野 忠男

甲南大学特別客員教授

1947年、大阪府生まれ。70年、神戸大学経営学部卒業。75年、同大学大学院博士課程修了。79年から80年までハーバード・ビジネス・スクール留学。2011年3月まで神戸大学大学院経営学研究科教授。11年4月から現職。専攻は、経営戦略論、経営組織論。著書に、『日本型経営の復権』『「競争優位」のシステム』などがある。

執筆記事一覧

甲南大学特別客員教授 加護野忠男=文
1
nextpage

写真フィルムの巨人、米コダックが倒れた。一方、日本の富士フイルム、コニカは事業の多角化によって生き残りを図っている。この明暗をわけた背景には日米における企業観の違いがあると筆者は説く。

お国柄が反映された4社の縮退への対応

この1月にコダックが日本の会社更生法に当たる法律の適用を申請したというニュースが伝えられた。

このニュースは日本のビジネスマンを驚かせるものだった。同社は、世界の写真フィルム産業のリーダー企業であった。しばらく前まで高収益の超優良企業だった。このような会社が倒産するというのは日本ではありえない話だ。ニュースを聞いて間違いではないかと思った人も多かったに違いない。

写真フィルムはかつて世界で4社しか製造できなかった商品である。アメリカのコダック、ドイツのアグファ、日本の富士フイルム、コニカの4社の寡占市場であった。そのために、上位企業はかなりの利益を得ていた。ところが、デジタル写真技術の進歩で、銀塩式の写真フィルムの需要は縮退してしまった。

4つの企業の縮退への対応の仕方は、お国柄を反映してずいぶん異なっている。

ドイツのアグファは、X線写真とその解析技術を深掘りし、プロ用の市場、医療用の市場というニッチを深く耕すことによって生き残りを図ろうとしている。このような専門市場は大きくないが、技術が生み出す価値に対する対価を払ってくれる市場である。規模を求めないドイツ的な対応だ。日本のコニカは、写真機メーカーのミノルタと合併し、デジタルカメラや複写機など技術の幅を拡大し生き残ろうとしている。同じく富士フイルムは、もともと事業の多角化をしてきた企業であるが、複写機、デジタルカメラ、電子部品・電子材料など、蓄積された技術の周辺で応用分野を広げる形での事業・商品の広範な多角化によって生き残りを図ろうとしている。

それと比べると、コダックは、企業買収という形で事業の多角化を図ったが、社内技術の深耕や幅の拡大にはそれほど熱心ではなかった。その背景には、企業の多角化に関するアメリカの投資家の否定的な態度がある。アメリカの投資家は、企業が事業を多角化しても投資効率が改善されることは少ないと考える。多角化するぐらいならそのお金を投資家に還元すべきだと考える。投資家は、自らのポートフォリオを組み替えることによって、もっと効率的に多角化ができると考える。企業は余剰なキャッシュを持つべきではないし、事業は集中化すべきだと考える。こうした投資家の意向を大切にしたコダックは、事業の多角化に慎重にならざるをえなかった。

PickUp