2012年5月9日(水)

レノボ、HP……PCメーカーの「Made in Japan回帰」はなぜか

コストで競争せず、高くても買ってもらえる価値を訴求する

PRESIDENT 2012年4月30日号

著者
加護野 忠男 かごの・ただお
甲南大学特別客員教授

加護野 忠男

甲南大学特別客員教授

1947年、大阪府生まれ。70年、神戸大学経営学部卒業。75年、同大学大学院博士課程修了。79年から80年までハーバード・ビジネス・スクール留学。2011年3月まで神戸大学大学院経営学研究科教授。11年4月から現職。専攻は、経営戦略論、経営組織論。著書に、『日本型経営の復権』『「競争優位」のシステム』などがある。

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甲南大学特別客員教授 加護野忠男=文

製造拠点を海外へ移す日本企業が多いが、レノボ、HPは日本国内での生産に切り替えている。国内での製造には顧客価値を高められるという強みがある。日本企業はそれに気づいていないのではないか。

米沢事業所の優れた「クイック・レスポンス」力

中国のパソコンメーカー、レノボが日本の米沢工場でパソコンの生産をはじめるというニュースが報道された。レノボは、IBMのパソコン事業を買収した会社である。 昨年は、NECと合弁会社(レノボが過半数保有)を設立し、NECのパソコン事業を統合した。この統合はNECにとってもメリットがあった。レノボの部品調達力を利用して部品コストを下げることができるようになり、NECの国内でのシェアは上昇した。電子製品の場合、コストダウンの鍵は基幹部品のコストダウンである。台湾や中国のOEMメーカーやEMS(電子機器製造サービス)会社のコスト優位は、他社の生産を請け負い、生産台数を増やすことによって、部品サプライヤーに対するバーゲニング・パワーを高め、調達コストを下げることができる点にある。電子製品の製造原価に占める人件費は2割以下であり、人件費を下げるよりも部品調達コストを下げるほうが効果は大きい。

米沢工場は、NECのパソコンの主力工場である。この工場でレノボのパソコンの生産が行われることになったのは、日本の電子機器メーカーにとっても明るいニュースであり、海外へ流出していった工場が国内へ回帰する可能性が出てきたからだ。日本の工場の製造コストは高いけれども、メード・イン・ジャパンという原産地証明は高コストを補ってあまりある価値を持つとレノボは判断したのだろう。発展途上国の企業の目からすると、「メード・イン・ジャパン」という原産地証明は、日本人や日本企業が考える以上に価値を持っているようだ。日本の国内では、円高や過剰な労働規制のせいで、日本は高コストだから国際競争力がないという見方が強くなっている。確かに、コストでは発展途上国の量産企業には勝てない。しかし、量産品質に関しては、日本での生産で顧客価値を高めることができる。

この顧客価値には2種類のものがある。第一は、顧客の要求に合わせてスピーディに商品を供給するクイック・レスポンス能力の高さである。米沢事業所は、かつては、ユニット生産で国内を代表する工場であった。ユニット生産とは、一人の作業者が製品をゼロから組み立て完成させる製造方法である。この方式では段取り時間が短くてすむから、営業部門から発注のあった商品をすぐに供給することができる。組み立ての場所が屋台のラーメン屋を連想させることから屋台生産とも呼ばれていた。米沢工場は、その後も、RFID(Radio Frequency Identification)を活用した生産管理システムを取り入れ、生産効率を高めている。RFIDとは電磁波を使った非接触の自動認識技術で、小型無線チップをタグやカード、商品に付け、チップの情報をもとに在庫管理や物流管理を行う生産管理の方式である。

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