(PANA=写真)

朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長 張成沢(チャン・ソンテク)
1946年2月生まれ。金日成総合大学経済学部卒業後、党中央委員、党第1副部長などを歴任。2010年より現職。


 

北朝鮮金正日・総書記の葬儀。積雪の車道をゆっくり進む棺を乗せた黒のリンカーンに寄り添う後継者の三男・金正恩氏のすぐ後ろを歩いていた。新指導者の叔父にして後見人。党・軍に幅広い人脈を持ち、秘密警察も掌握し血なまぐさい権力闘争も勝ち抜いてきた一方で、経済に明るく中国とも太いパイプを持つ外交通の開明派でもある。北朝鮮を改革開放へ導くにしろ、金正日強硬路線を継承するにしろ、この男の手腕にかかってくる。

平民出身だが若い頃は、ハンサムで歌やダンスのうまいプレーボーイ。金日成総合大学在学中、正日氏の妹・敬姫夫人に見染められた。身分違いの恋は金日成氏の怒りを買い、地方に強制転校させられるも、正日氏のとりなしで結婚。以来、正日氏への忠誠は絶対となり、金日成派幹部の粛清「深化組事件」指揮など汚れ仕事も引き受けた。有能ゆえ謀反心を疑われ、正日氏にパージされたのも一度ではない。そのつど驚くべき忍耐力で返り咲き、簒奪野心のない忠犬として信頼を得た。そして正日氏に後継者を支えることを誓う。

後継争いに敗れた正男氏にはわが子のような愛情を注ぐ。粛清された張氏を救ったのが正男氏の母親・成恵琳氏だったからだ。一時期は正男氏を後継者として強く推していた。

正日氏の死去が予想外に早く、正恩体制の権力基盤はまだ盤石ではない。中枢から追い落としたはずの政敵・呉克烈国防委員会副委員長は軍部で依然強い影響力を持ち、体制が瓦解するほどの権力闘争はいつ勃発しても不思議ではない。そのとき、張氏はどのような役割を担うのか。未熟な若様に変わらぬ忠誠を尽くすのか。中国の庇護下にある流浪のプリンスの存在も視野にあろう。中国当局者は彼を曲者と呼ぶ。忠犬の腹の底は誰にも読めない。