他社追随を尻目に今度は「薄底モデル」出したナイキ

今回、アシックスとアディダスが仕掛けた「自社イベント」だが、厚底シューズで世界のマラソンを変えたナイキもかつて開催したことがある。2017年5月の「BREAKING2」だ。この非公認レースに向けて開発が進められてきた厚底シューズが“大爆発”する。

前年のリオ五輪男子マラソンで金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲ(ケニア)が当時の世界記録(2時間2分57秒)を大きく上回る2時間0分25秒で42.195kmを走破。世界中を震撼させた。

この企画はナショナルジオグラフィックチャンネルのドキュメンタリー番組としても放送された。シューズだけでなく、シューズ開発と新記録を巡る「人間ドラマ」も同時に作ったわけだ。これは同社が仕掛けたことかどうかは不明だが、そうだとすればいい演出だ。キプチョゲがひた走る映像に魅了され、彼が履いていた厚底シューズに関心が高まった人は世界中に数千、数億人といるだろう。

「BREAKING2」を知っていると、正直、今回のアシックスとアディダスの自社イベントには物足りなさを感じてしまう。

ナイキが世界を驚かせた厚底シューズはマラソン界の常識になった。そして現在も、遅ればせながら厚底商品を発売して必死に追いすがろうとする競合他社を尻目に、先手先手で攻め続けている。

今年2月24日にナイキは“真逆”ともいえるシューズを発売した。それは『ズームエックス ストリークフライ』(以下、ストリークフライ)。5km、10kmなどの短いロードレースやトレーニングを行うアスリート向けに開発したモデルだ。

ナイキ「ズームエックス ストリークフライ」
写真提供=ナイキ
ナイキ「ズームエックス ストリークフライ」

実はこれ、靴底は25mm強の「非厚底」。現行のナイキモデルでは最軽量となる172g(26.5cm)。限られたスペースのなかに厚底シューズで培った最新テクノロジーが詰め込まれているという。市民ランナーの中にはいち早く買い求めた人も少なくない。

ナイキアプリ限定の発売とはいえ、「プロトタイプ(試作品)」という名前のカラーは数時間で完売。後日、オークションサイトでは販売価格(税込1万9250円)の倍近い値段で取り引きされていた。この5月中旬には新色を登場させるなど抜かりない。

もしナイキが契約選手に『ストリークフライ』を着用させて5km、10kmレースを走るイベントを開催していたら、どれぐらいのタイムが出ていたのか。非常に気になるところだ。

アシックスとアディダスだけでなく、多くのブランドがナイキの動きに注視している。王者を脅かすためにはさまざまなアイデア、革新的なPR戦略を練る必要があるだろう。

結局のところ、どんなに素晴らしいシューズを作っても、王者になれるポテンシャルを持つランナーが履かないと「世界一」をもぎ取ることはできない。

世界のトップ選手が「履きたい・契約したい」と共鳴できるシューズ作りの発想やコンセプトを打ち出し、レースで結果を出し、その他の世界の有名・無名ランナーに夢を与えること。これが、シューズ市場でトップを目指す企業の課題だと言えるだろう。

【関連記事】
「ワイン離れが止まらない」フランス人がワインの代わりに飲み始めたもの
中学日本一の選手はなぜ消えていくのか…"中学までの子"を大量につくる「スポーツバカ親&コーチ」の罪
目標は「打倒大阪桐蔭+グラウンドのボールパーク化」大阪府立高校野球部のすごい試み
秀岳館サッカー部もそうなのか…「体罰・暴力が必要派が5割」スポーツ界の"脳みそ筋肉"すぎる精神構造
「小中学生の全国大会は子供を不幸にする」スポーツ界にはびこる"勝利至上主義"という麻薬