九州電力によるやらせメール事件の舞台となったテレビ番組(2011年6月26日)。(経済産業省=写真)

昨年6月の九州電力やらせメール事件では、玄海原発の運転再開を世論で動かす――つまり「草の根運動」に見せかけていたことが注目された。このように、企業や自治体、政府が主導している“草の根運動”のことを「人工芝運動(Astro Turfing)」という。1985年にアメリカの政治家ロイド・ベンツェンが生み出した造語だ。

まだ社会学の専門用語としても確立されてはいないが、類語は多い。食べログへのやらせ投稿で注目された「ステルス・マーケティング」(商業的な用法だと消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為を行うこと)、「グリーン・ウオッシュ」(上辺だけのエコ活動)などだ。人工芝運動という言葉には、政治的な意味合いのある活動も含まれるのが特徴で、九電のケースはその典型例だといえる。

「人工芝運動は本物の草の根運動を目立たなくさせ、さらには枯れさせるのが目的。どちらが“本物”の市民の意見か、世論が定まっていないような場面にこそ、人工芝運動が使われる」と名古屋文理大学情報文化学部准教授・井上治子氏は指摘する。

「インターネットの普及により、広い分野で普通の市民が意見表明を行う機会が格段に増加し、これらが世論や市場に与える影響が大きくなりつつある。それに比例して、これらを利用する人工芝運動の誘因も増加している」(井上氏)“意見表明の自由”を守るには、一方で“嘘の表明”も許容せざるをえない。嘘を見抜く力を磨くことは、今後ますます重要になるだろう。