影響力は国税の中枢におよんでいることも

しかし、この行為は国家公務員倫理法に抵触していたのです。贈収賄としては立証できなくても、国税職員たちがこのOB税理士の顧問先に、なんらかの手心を加えたことは、明白です。

こういう接待を受けた場合、そのOB税理士の顧問先でまともな税務調査などできるわけがないのです。

あからさまに税金を安くすることはなくても、落ち度を見て見ぬふりをしたり、普通よりも軽めの調査になることは非常によくあることなのです。筆者も、現役時代にOB税理士から御馳走されたこともありますし、OB税理士から紹介された飲食店で、料金を安くしてもらったこともあります。こういう経験がない税務署員は、皆無だと言っていいでしょう。

しかも国税OB税理士が、元幹部だったりすると、国税局に強い影響力を持つことになります。直接の後輩が国税の中枢にいることが多いからです。だから、国税の大物OBには、職員レベルではなく、国税局や税務署までも遠慮してしまうことになるのです。

書類に記入するビジネスマン
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元国税局長の「幼稚な脱税」が当初バレなかったワケ

国税OB税理士と税務署員の癒着について、象徴的な事例を一つ紹介しましょう。2002年、元札幌国税局長の税理士が、約7億4052万円を隠し、約2億5273万円を脱税していたとして起訴される、という事件がありました。

この税理士の脱税の手口は非常に幼稚で、収入の一部のみを申告し、大部分の収入を申告していなかったというものです。経費の水増しや、ダミー会社を通すなどという工作さえ一切用いられていなかったのです。

なぜこのような幼稚な脱税をしていたのかというと、国税はOB税理士に甘いからです。この税理士の場合は、元国税局長という大幹部です。国税局長というのは、普通はよほどのことがない限りノンキャリアの人間がなることはありません。

この税理士はノンキャリアで国税局長になったのだから、まれに見る大出世といえます。「ノンキャリアの星」とまでいわれた人物です。

この税理士は、国税局人事二課長、国税庁首席監察官など、国税の重要ポストを歴任していました。東京国税局人事二課長の時代には、国税庁と検察庁との調整役を果たすなどしていました。

国税庁首席監察官というのは、国税職員全体を監視する役割です。国税には、監察という部署があり、ここは国税職員が不正や不祥事などを起こさないように見張るところです。