成功の保証がない挑戦を4年がかりで続けた結果

生ジョッキ缶の設計・開発にあたって、社内のパッケージング技術研究所は、塗料メーカーと共に試行錯誤を重ねた。苦難の末に、缶の内側に特殊塗料を焼き付けて細かい凹凸を付ける「クレーター構造」を編み出し、缶を開けると泡が立ち上がる設計をクリアしたが、今度は品質の安定性という課題が大きく立ちはだかった。研究所で作る場合と、工場で大量生産する場合では、どうしても品質に差が生じてしまった。また、冷やす温度によって泡立ち方が変わりやすく、泡が立ちすぎて溢れてしまっては問題になるし、泡が少なすぎれば「生ビール」感が失われてしまうことにも頭を悩ませた。どんな条件下でも均一に泡が立つ設計のため、調整・改良が懸命に重ねられた。

こうした生ジョッキ缶の開発は、困難で、前例がなく、成功の保証がないものだった。完璧を追い求める従来の開発方針では、なかなか前に進めなかったという。しかし、「不完全かもしれないけど、すごくいい価値を秘めているから、みんなで作りながら考えよう」(※1)という姿勢を貫き、顧客に驚きと感動、新しいワクワク感を届けるために勇気ある挑戦が進められた。そうして、缶を開けると泡が立つ設計と、工場での大量生産における安定品質の実現に4年がかりでたどり着いたのだ。

泡立つビールのクローズアップ
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです

2021年を通して数量限定での販売が続けられた

アサヒビールは、2020年、11年ぶりに売上トップの座をキリンビールに奪われた。そこで「家飲み」需要を取り込もうと勝負をかけたのが、この生ジョッキ缶だった。生ジョッキ缶は、2021年4月6日にコンビニで先行発売されると大きな反響を呼び、同月20日の全国発売時には売り切れが続出し、翌日には一時販売休止となるほどの人気を博した。その後も人気は継続し、2021年を通して毎月1回の数量限定販売が続けられ、400万ケース(1ケースあたり340ml缶24本)が販売された。2022年には前年の約5倍まで生産体制を強化し、ヒット商品としての座を揺るぎないものにしている。

早く小さくたくさん作る「スモールスタート」

【事例2】日本コカ・コーラ「檸檬堂」

完璧主義の罠から抜け出すためには、早く小さくたくさん作る「スモールスタート」の方針も有効だ。これは、じっくり時間をかけて「100」の大きな商品を作って販売するのではなく、早く小さく「10」の商品に仕上げたら発売してみる、といった感覚である。多くの時間とコストをかけて最初から完璧を目指した「100」で失敗したら、甚大なダメージを受けてしまう。しかし、「10」のダメージならば大きな痛手にはならないため、思い切ったチャレンジが可能になる。数多くの「10」を素早く作り、市場に出してニーズを確認してみて、その反応を受けて迅速・柔軟に軌道修正しながら、有望な「10」を「100」に大きく育てる。このスモールスタートによって誕生したヒット商品が、日本コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」である。