半端な中小企業が放置されることで平均給与があがらなくなっている

普通にしていれば企業は大きく成長し、伸び悩む会社を統合して大きくなっていきます。アメリカなどは業績がイマイチの中小企業を野心的な会社がバンバン買収して大きくしていくので、規模が大きい会社が多くなり、結果として平均賃金も高くなる。しかし文化的・制度的にそうならない国も少なくありません。

アトキンソン氏の本では「企業規模が小さいまま放置されている」国の例として「スペイン(S)」「イタリア(I)」「韓国(K)」「イギリス(I)」「ニュージーランド(N)」「ギリシャ(G)」を合わせた「SINKING(沈みゆく国家)」という分類が提案されています。

財閥で有名な韓国も含まれるのに違和感があるかもしれませんが、韓国も限られた「財閥」以外の会社は、むしろ日本以上に小さいまま放置されていて(韓国ドラマでよくある「もうチキン屋をやるしかない」といった感じかもしれません)、最近は生産性向上の頭打ちが課題になってきているそうです。

アトキンソン氏はそれら「SINKING」国家にはそれぞれ企業規模を小さく保った方がトクになる」様々な制度がある、と分析しています。この制度を徐々に減らしていくことで、「中小企業の統合を後押し」することが、日本人の給料を平均的に大きく上げていくために大事なことなのだ、というのが、アトキンソン氏の主張の骨子なのです。

日本円マネー
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「零細企業」と「中堅企業」では大きく違う

このアトキンソン氏の見解については様々な批判があります。

その代表的なものは、人口比で日本の中小企業の数がそれほど多いわけではない、というものです。もともとアトキンソン氏自身が「竹中平蔵的ネオリベ路線」と一緒くたにされて批判されがちなこともあって、この「アトキンソンの分析は間違っている」という指摘も一部で強く出回っていますが、それは「中小」のくくりが大ざっぱすぎるからであって、方向性自体が間違っているわけではありません。

例えば「350人以下の企業」を中小企業の定義として見たとき、日本の中小企業の数はそれほど多いわけではありません。しかし、10人の零細企業と350人の中堅企業では、同じ中小企業といっても事情は全く異なります。ここで大事なのは「零細企業」と「中堅企業」との間の違いの部分です。

アトキンソン氏の分析の中で最も意味があると思うのは、図表1のようなものです。「20人以下の企業で働く労働者の割合」とその国の労働生産性を並べた分析で、非常にキレイに比例関係になっています。

本の中では何気なく提示されているデータですが、単に出来合いの統計をつまり、「中小企業を統合する」と言うと「付いていけないやつは死ね」と言わんばかりの「血も涙もない市場原理主義」政策に見えてしまい、それに対する批判が飛んできます。