(PANA=写真)

金正男(キム・ジョンナム)
1971年、北朝鮮の第2代最高指導者の故・金正日の長男として生まれる。少年~青年期は、モスクワやスイス・ジュネーブのインターナショナルスクールで10年近く過ごし、近年はマカオなど中国各地を転住。


 

ひげ面の熊のような風貌に似合わないブランドものバッグや金のネックレス。メディアから垣間見える金正男氏の姿は、父親から愛想を尽かされた放蕩息子そのものだ。だが、直接彼を知る人に言わせれば、北朝鮮第2代最高指導者の故・金正日氏の息子たちの中で最も開明派で知的に優れた「指導者の器」という。

女優だった母親・成恵琳が人妻のうちに生まれたため、幼少期はモスクワで隠遁生活を送っていた。しかしその後は、後継者候補としての帝王学を仕込まれた。ジュネーブのインターナショナルスクール留学中は外国人学友もおり、3男・正恩氏の留学時代の交友が北朝鮮政府高官子弟に限られていたことと比べれば、国際社会を肌で知っている。赤坂の高級コリアンクラブが好きで「民団も総連も日本人も壁がなく一緒にカラオケで歌えた」と、交流のあった日本人記者にメールで吐露したことがあった。

2001年5月1日、成田空港にて偽造パスポートで入国を図ろうとして拘束されるという失態さえなければ、彼が後継者となった可能性は高い。「個人的には3代世襲に反対します」と日本のテレビ朝日の取材で言明した彼なら、改革開放に舵を切っただろう。しかし後継者は3男・正恩氏に決まり、正男氏は流浪のプリンスに成り果てた。今や好戦的で嫉妬深い正恩氏による暗殺におびえ、その身の安全の保護は中国に頼っている。父親の死すら報道によって知り、葬儀も参列できなかった。

しかし若すぎる正恩氏が青息吐息の国家を率いていけるのか。正男氏は後継者の座に「関心がない」というふうを装うが、彼とて王子。万が一にも正恩氏が失脚したときに、その存在が再び鍵となるはずだ。庇護を受けてきた中国当局の思惑も無視できまい。

(PANA=写真)