(写真=PANA)

キリンビール社長 松沢幸一(まつざわ・こういち)
1948年、群馬県生まれ。北海道大学農学部農学研究科修士課程修了。73年キリンビール入社。2002年北陸工場長、04年執行役員生産本部生産統轄部長、07年キリンホールディングス常務、09年から現職。


 

「関東大震災(1923年9月)では、当時は横浜にあった本社および工場が被災し26人が亡くなった。日本では自然災害は不可避。それだけに、東日本大震災での経験を、次世代に伝えていかなければならない」

2009年3月からキリンビールの第18代社長。ただし、生産部門出身のトップは珍しく、まだ2人目である。

ビール産業は、半導体と並ぶ代表的な装置産業だ。装置の塊でもあるキリンビール仙台工場は、昨年の3月11日、巨大地震と7mを超える大津波に襲われた。工場の象徴でもある貯酒タンクが4本倒壊したのをはじめ、多くの機械設備が海水を被ってしまう。「工場は閉鎖されるのでは」と地元では憶測が流れる。だが、生産出身トップは、「復興は可能」とすぐに判断した。特に、従業員が屋上に待避し全員無事だったことが、決め手となった。

現実に仙台工場は9月に生産を再開し、11月には出荷を始める。「工場の従業員が頑張ったんだ」。被災とそれを乗り越えた経験を積み、2012年の国内ビール類商戦に臨む。「縮小均衡から再成長へ。増収、増益、増販して、パイを広げる必要がある」。

国内ビール大手5社の昨年の販売量は、マイナス2%程度となり7年連続で縮小すると予想する。だが、韓国製“第3のビール”を加えると、「市場が、そう落ち込んでいるわけでもない」と言う。キリンは今年、2%増と6年ぶりの前年プラスを目指す。「市場はへこむが、当社は伸ばす」は、ライバル各社も同じスタンスである。

キリンが抜け出すカギは商品であり、もう一つは営業力だ。1月には国内営業の専門会社、キリンビールマーケティング社を発足させた。「ビール類のような国内産業の活性化は、人々に勇気を与え震災復興に弾みがつく」。