住宅にも「ステルス値上げ」が起きている

すでにマンションや戸建てを所有している持ち家層は、間取りを含め現在の住まいに満足している上、この10~20年の間に、そこそこ良い立地で購入した物件の価値は下がらないか値上がりしているケースが多く、自宅は高値で売却可能なものの、いかんせん買い替え先も高いという悩みがあります。

また例えば新築マンションはここ数年価格を上げると同時に、間取りがかなり窮屈になってきました。100円のお菓子などが値上げせず価格据え置きで200グラムから180グラムへと少なくするのと同じ要領で、上昇を続ける不動産市場において、過度に総額を膨らませないための、新築マンションデベロッパーの企業努力と言えます。要は「ステルス値上げ」と言われるものです。

かつてなら3LDKであれば70平米超えが当たり前だったところ、昨今は60平米台前半がせいぜいなところ。中には50平米台のものもみられます。こうなると間取りは崩れ、リビングや各部屋は小さくなり収納は減りと、居住快適性も損なわれています。さらにはコストダウンのためにキッチンやユニットバス・洗面化粧台といった設備のグレードも落ちています。

その他にも室内では「2重床を直張り」「複層ガラス」「ディスポーザー」「建具」やトイレの「手洗いカウンター」、バルコニーの「スロップシンク」と呼ばれる底の深い流しなど、かつてならついていた設備がことごとく省略されています。

モダンなインテリアのリビングルーム
写真=iStock.com/FollowTheFlow
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5000万円の物件を10組が競争するケースも

共用部では「エレベータの台数を減らす」「コンクリート製だったのを鉄骨階段にする」などが目立ちます。価格が高い割にこうした難のあるマンションに、買い替え層ほど食指が動きません。自宅より明らかに狭く、いかにもチープに思えるからです。

「賃貸から持ち家」の新規プレイヤーが増加する一方で、「買い替え層」が動かないため売り物件が少ないというダブルパンチで、在庫は減少の一途をたどっているわけです。

不動産価格は最終的に「需要と供給の関係」で決まります。売り物件1つに対し3人の購入者候補がいるときより、5人いる場合のほうが競争が激しくなるため、価格は上昇方向に向かいます。

最近では、5000万円で売りに出ている人気物件に申込者が殺到し、5組、時には10組の購入申込みが入るといった事例もちらほら見られます。なかには「5100万円で買うからこちらに譲ってほしい」「こちらは5200万円だ」というように買値がアップするいわゆる「買い上がり」といった現象まで起きているのです。

新築マンションについても、発売戸数は頭打ちであるものの、これは主に用地取得がうまく進んでいないことが理由で、売れないからといった理由ではありません。価格、契約数ともに上向き。コロナ禍をよそに、不動産市場は活況が続いています。