財務官僚は経済学の勉強不足

「日本財政は破綻寸前で、増税をしないとタイタニック号のように日本は沈没する」という、矢野康治財務省事務次官の論文(『文藝春秋』2021年11月号掲載)が話題となった。同氏の論文は政府の持つ実質資産を無視する点で、基本的なデータの理解が間違っていることは、『イェール大名誉教授「"日本財政は破綻寸前"はウソと断言できる理由」』で既に論じた。

その際、同論文には経済学の初歩である需要供給分析を理解していないのではないか、と思わせるところがあったので今回論ずることにする。

個人所得税、法人税、消費税など税金の直接の対象は、それぞれ個人所得、法人所得、消費額であるが、しかし、課税された主体に全部が負担されているわけではない。実は、課税負担をほかの経済主体に転嫁することができるからである。

図1は、ミクロ経済学の初歩に出てくる需要供給の図である。縦軸は価格、横軸は取引量を示す。例えば、自動車の市場で、需要は自動車価格が上がると減少するので右下がりの曲線であり、他方自動車価格が上昇するとより多くの供給が市場に出てくるので右上がりの曲線である。