したがって、自動車の価格は、図のMPで決まり、取引量はOMで決まる。このとき、自動車に消費税が課されると、需要価格と供給価格の間に税額だけのくさびがうち込まれるので、生産者価格はNS、消費者価格はNQとなる。税そのものは、企業など民間主体から政府への移転所得にすぎないが、価格の資源配分効果が損なわれるので、三角形PQSの「死重損」が社会から失われる。

四辺形AQSBの消費税収が生まれるが、そのうち青色で示した四角形AQRCの部分は、消費者が高い税込みの価格を支払うことで負担する。そして、残りのCRSBは生産者により負担される。ここで強調したいのは、消費税による税収の一部分が生産者に転嫁されるという点である。

円マーク
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消費者だけに負担を押し付けようとする

しかし、『文藝春秋』矢野論文を読んで不思議に思ったのは、「(欧州と違って)日本では、消費税はきちんと価格に転嫁しなければならないと法律で定めています」という指摘である。

その法律とは、「消費税転嫁対策特別措置法(消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法)」である(ちなみに、お役人は偉そうに見せるためか、法律に長い名前を付けるのが好きである)。

矢野論文を読んで、私は大変驚いた。

第一に驚いたのは、価格理論をまともに理解すれば、図1で示したとおり、消費税の負担は消費者に負担されるだけでなく、その一部は生産者や取引業者にも負担されるのだが、財務省の官僚トップが経済学の基本を理解していないことである。だからこそ取引量は、図1でいえば、PCからRCに減少して、生産者をはじめ社会の経済活動はマイナスの影響を受ける。

確かに一般に、消費税は消費者に課せられ、法人税は法人に課せられるので、前者は会社に有利、後者は個人に有利と考えられがちである。しかし、転嫁の可能性を考えると、「個人に有利」と言われる法人税でも従業員やその会社の消費者に負担が及び、「法人に有利」と言われる消費税でも企業収益にマイナスが及ぶ。

もちろん例外はあり、特別の場合には消費者に全面的な転嫁が不可能でもない。1つには、図2Aで示したように、供給曲線が完全に弾力的である、つまりその製品(やサービス)が無限に一定の価格で供給できる場合。あるいは、図2Bで示したように、供給の弾力性のいかんにかかわらず、需要曲線の弾力性がゼロ、つまり財の需要が価格と無関係に一定だけであるものの場合には、すべて消費者が負担することになる。