加熱は75℃で1分間以上

牛をと畜し枝肉にする際には、腸管内の菌が肉に付かないように細心の注意が払われます。しかし、付着を完璧にゼロにするのは容易ではなく、牛肉には菌が付いているという前提で調理しなければなりません。75℃1分間以上加熱すれば、さまざまな種類の微生物が大量にいたとしても不活化でき安全に食べられる、とされています。同等なのは70℃3分間や63℃30分間の加熱。温度が低い場合はその温度を維持する時間を延ばす必要があります。

ただし、表面の加熱殺菌だけでは足りません。肉、すなわち家畜の筋肉は、その家畜が生きている時には菌が中に入り込めません。しかし、食肉処理後は、肉の表面に付いた菌が中へ浸潤して行きます。塊肉の表面にO157を接種し4℃で20時間保存した実験では、表面から10~15mmの深部で、表面菌数の1000分の1から10000分の1の菌数が検出されました。肉の保存日数が増加すると共に、肉塊内部の菌数が増加することもわかっています。

スーパーの肉はユッケには適さない

2011年、焼肉チェーン店のユッケにより客181人が腸管出血性大腸菌の食中毒を発症し、うち5人が亡くなりました。そこで、ユッケや牛刺し、牛タタキ、タルタルステーキなど、事業者が牛肉を生で提供する場合の規格基準が設けられました。肉表面だけでなく内部の菌も想定し、菌を殺して安全に提供できるように基準は決められています。

規格基準は事業者が客に提供する際に守るべきルールで、家庭で守らなくても罰せられません。しかし、消費者もこの基準の根拠を知っておくと牛肉の安全な調理のポイントを理解しやすいと思います。ここで少し詳しく説明しておきましょう。

規格基準では、と畜後4日以内の枝肉から衛生的に切り出した肉塊を速やかに気密性のある容器包装に入れ密封し、肉塊の表面から深さ1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱する方法、又はこれと同等以上の方法で加熱殺菌した後、速やかに4℃以下に冷却しなければなりません。

食肉店やスーパーマーケット等で売られる牛肉は、食肉処理し枝肉とされてから一定期間、冷蔵保存を行い、タンパク質の一部がアミノ酸に分解されうま味となってから切られ売られるのが普通です。そうした熟成は認めず、と畜後4日以内の枝肉を速やかに加工することで、菌の肉への浸潤を極力、防いでいるのです。

また、冷凍肉を材料とするのは禁止。冷凍すると細胞が壊れ、菌が入り込みやすいからです。

こうしたことを避ければ、菌が肉内部へ入り込んでいたとしても深さ1cm程度にとどまり数も多くはなく、60℃2分間以上という「75分1分間」に比べ緩い加熱条件でも肉を安全に食べられる、ということがデータに基づいて確認されています。