災害時に一斉帰宅したら都内の歩道はどうなるか

このなかで、最も重要な帰宅困難者対策と考えられるのが「一斉帰宅の抑制」と「車道における交通需要抑制」です。例えば筆者らは、帰宅困難者対策の政策・施策を可視化・評価する目的で、大都市複合災害避難シミュレーション技術を開発しています3)。巨視的なシミュレーションなので、もちろん絶対このような状況になるという訳ではないことにご注意いただきたいのですが、これを使って帰宅困難者対策の施策効果をチェックしてみましょう。

筆者らの調査によれば、東日本大震災時は東京では最大震度5強であったため、家族の安否を心配する人も比較的少なく、「半分くらいの人が少しずつ帰宅した」という状況でした。この時の発災1時間後における歩道の歩行者密度を上記のシミュレーションで予想したものが図表1になります。

【図表1】発災1時間後における歩道の歩行者密度シミュレーション
東日本大震災の再現を試みたケース(歩道、発災から1時間後)。Google Earthを基に作成。

これを見る限りでは、1m2あたり6人以上などの、群集事故のリスクが高そうな過密空間は、東日本大震災時にはほとんど見られません。一方で、首都圏で平日昼間に大規模災害が発生し、もし仮に帰宅困難者の一斉帰宅がなされてしまったと想定した場合の、発災から1時間後に予想される歩道の歩行者密度を示したものが図表2になります。

【図表2】一斉帰宅を想定した歩道の歩行者密度シミュレーション
仮に通勤者などが一斉帰宅をしてしまったケース(歩道、発災から1時間後)。Google Earthを基に作成。

電話ボックスに6人が詰め込まれる超過密空間

ここでは紫色が1m2あたり6人程度の超過密状態が発生するところと色付けをしておりますが、そのような場所がいくつか散見されるなど、図表1とは比べ物にならないほどの危険な箇所があちこちで発生する可能性が示唆されます。1m2とは電話ボックスの面積とほぼ同じですから、その中に6人が詰め込まれる状況をイメージしていただければよいかと思います。一斉帰宅が仮に行われてしまうとすると、歩道の状況は東日本大震災時とは全く異なることがお分かりいただけると思います。

さて、ここで仮に東京23区の従業員の半数が帰宅抑制を行ったものとして過密空間の発生箇所を計算してみました。これを示したものが図表3になりますが、過密空間の発生する箇所がかなり減少していることが見て取れます。

これらより、一斉帰宅時と東日本大震災時は全く混雑の程度が異なることや、一斉帰宅の抑制が過密空間ひいては群集事故のリスクを減らすために効果的な対策であるということが、お分かりいただけると思います。

【図表3】半数が帰宅抑制を行った場合の密度シミュレーション
半分の従業員が一斉帰宅の抑制をしたケース(歩道、発災から1時間後)。Google Earthを基に作成。

3)廣井悠、大森高樹、新海仁:大都市避難シミュレーションの構築と混雑危険度の提案、日本地震工学会論文集第16巻第5号、pp.111-126、2016.04.