事実、国内外に向けて核開発を否定してきた日本の中枢でさえ、実は核兵器開発構想を秘めていたらしいことを94年に毎日新聞が報じ、続いて10年秋にはNHKが報じた。その後、10年10月に秘密解除された外務省の極秘文書では、それが事実であることが明らかになった。開示された文書「わが国の外交政策大綱」には次のような文言が謳われている。

「核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を受けないよう配慮する」(「大綱」67ページ)

「1969年9月25日」の日付があるこの「大綱」は、同年7~9月に当時の外務省外交政策企画委員会でなされた議論を103ページにまとめたものだ。

同じく秘密解除された極秘文書で、実はいまだ、どのメディアにも報じられていない同委員会の興味深い議論がある。

まず、66年2月16日付「第360回外交政策企画委員会」議事録の13ページ。

沖縄にある核兵器も同様問題となろう」

「日米間のごとく同盟関係にあれば、常に保有国と見做され、核攻撃の対象とされることになろう」

「日本はいつも保有国とされうるわけだ」

「従来のソ連の解釈によると、『核兵器』の範囲は極めて広いようだ。弾頭に限らず、運搬手段はもとより、その発射施設もこれに含まれている。このような解釈であれば、日本にある米軍の施設も、核兵器とみなされうる

原子力空母、原子力潜水艦はこのよい例である

次は、68年11月20日付「第480回外交政策企画委員会」議事録の46~47ページ。

「もう一つ聞きたいのは、高速増殖炉だが、それをずっと使っていくと、だんだんプルトニウムがたまって、それが原子爆弾になるから、それ以上核燃料に頼らなくても自然に爆弾は出来上って行くのだという説をなす人があるが」

「……今の型の炉で動かして行くとどんどんプルトニウムが溜って行く。そして高速増殖炉が出来るような時点になれば、今度はそのプルトニウムを高速増殖炉の燃料に使うことができるわけである。今は、プルトニウム燃料というのは補完的な燃料にしかならないが、高速増殖炉が出来るまでの間、プルトニウムは使い道がなくて溜って行く。ほとんど実験用の用途しかないわけである

それはすぐ爆弾にはならないのか

いや、なる

「そうすると次の問題は、いかにしてその爆弾を運ぶかということだろうが」

未曾有の危機に瀕して国の針路を問われている平成の今、その判断を選挙権行使で間接行使するしかない国民が知るべき事柄は、国家中枢官僚による「核兵器保有構想」が単に過去の構想で終わった話にすぎないのか、それとも現在も受け継がれている計画なのかという問いへの答えである。傍点個所をつないで読み、併せて、現在進行中の政府と電力会社の「不可解な政策や挙動・言動」を傍証として見据えれば、もはや説明の必要はあるまい。これらが物語る隠された事実は、原発が間違いなく核兵器の開発を準備するものであり、その急所は「今停止中の高速増殖炉が高度に純化された軍用プルトニウムを生む」ということだ。政府は、少なくとも高速増殖炉が軌道に乗るまでは原発を国策からはずしてはならないと考えているということだ。それを承知で天下りの席まで用意しているからこそ、電力会社上層部には鉄面皮の対応が許されているのではないか。

※すべて雑誌掲載当時

(PANA=写真)