ある日、シドニー空港に降り立ってみると…

ところが2年ちょっとたったとき、豪州で変な感覚を覚えた。シドニー空港に降り立ったんですが、全く感動がないんです。伊丹空港から羽田空港へやってきたくらいの感じでした。海外旅行が半分義務になっていたんですね。結局、豪州とニュージーランドを回ったんですけれど、全然楽しくない。もう旅行も終わりやな、仕事をせなあかんと思った。

旅客機
写真=iStock.com/Boeing746
※写真はイメージです

——贅沢な生活に飽きてしまったとか。

そんな贅沢な旅行じゃないですよ。さすがに身の安全は考えたから野宿とかはしなかったけれど、基本的にはバックパッカーみたいな生活です。起業家として成功した、一財産を築いたからといって、うまいものばかり食って、高級ホテルに泊まるなんてことをしていると、マーケティングの能力は絶対に落ちる。言い方は悪いかもしれないけれど、普通の人の目線を持ち続けないとビジネスなんて考えられないと思っていたから。そう考えるとヤフーに売却はしたけれど、そのまま遊んで暮らすつもりはなかったかもしれませんね。

「一発必中ではなく、あれこれやってみよう」

——すぐに仕事は思いついたのですか。

僕は毎年正月に未来日記を書くのが恒例なんです。かなりの長文で、その年の年末に自分が何をやっているかを書くんです。不思議なことにこれが大概当たっている。2019年の正月には年末にいくつか新規事業を立ち上げていると書いた。この「いくつか」というところがミソです。

シナジーマーケティングの谷井等会長
撮影=門間新弥

インフォキャストは楽天に面倒をみてもらえることになった。シナジーマーケティングは幸い上場ができた。そうなると3社目はこれまでの2社を凌駕するものにしないとダメだと思ったわけです。ところが3年くらい旅行を続けていたから脳味噌がふにゃふにゃになっている。思いつかないんです。それで考え直した。一発必中ではなく、たくさん考えて、あれこれやってみよう。それでうまくいくものと、うまくいかないものがあってもええやないかと思った。

シナジーマーケティングをヤフーに売却した後、ペイフォワードという資産管理会社を立ち上げていました。そこに思いついた事業をやる会社をぶら下げていこうと思った。いま傘下に8社ありますが、このうち3社の事業は未来日記に書いています。そんな時にシナジーマーケティングを買い戻さないかという話があった。