米セールスフォース・ドットコムが2010年にヘロクという会社を買収しました。その発表をたまたま見ていたんですが、セールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフが「今日、われわれは素晴らしい会社を買収した。ヘロクだ」と言ったら、ヘロクの連中が大騒ぎしていたんですよ。「俺たち、ますます成長できる」って。ヤフーへの売却はそれと似た感じだったと思います。

共に働いた従業員のことを最大限考えた

ではなぜ買い戻したか。誤解しないでほしいのはヤフーがダメだったからというわけではないということです。売却してから2年間、僕自身もヤフーで働きましたが、従業員の能力は高かったし、フラットな組織でやりやすかった。

ただ現社長の田代正雄から、ヤフーの戦略が私たちが目指していた方向性と異なるものになっていきそうだと、グループ離脱も含めた相談を受けました。

もしかしたら、グループの再編などいろいろなことが起こるかもしれない。当時、シナジーマーケティングには約250人の従業員がいましたが、その人たちのことを考えたら、ベストな選択肢として自分が買い戻したほうが不確実性を減らせると思ったんです。

シナジーマーケティングの谷井等会長
撮影=門間新弥

インフォキャストは売ったけれど、シナジーマーケティングは買い戻した。一見、真逆の行動をしているように見えるかもしれませんが、共に働いた従業員のことを最大限考えて行動したという点では一緒です。

——シナジーマーケティングを売却したことで、十分な創業者利益を得たと思います。買い戻さず、そのまま優雅な生活を送るという選択肢もあったのではないですか。

ありましたね。ヤフーを辞めて、最初はめっちゃ楽しかったんですよ。朝起きて、「今日は何をしようかな」って思えることが本当に幸せやった。それで最初に東南アジアへ行った。そのままずっと旅をしようかと思ったほどです。実際は日本でいくつか仕事があったから、海外と日本を行ったり来たりしていたんですけれど。